ゲームセットは聞こえない~超能力野球奇譚~ 1回裏 野球アンチと宇宙人とゲーマー 10球目 宇宙人の不在は証明できない
前回のお話し↓
ゲームセットは聞こえない~超能力野球奇譚~ 1回裏 野球アンチと宇宙人とゲーマー 9球目 練習試合の相手がいない - タカショーの雑多な部屋
<前回までのあらすじ>
浜甲学園の野球部が復活し、練習試合の相手も決まった。練習試合に向けて猛練習だぁ!
<主な登場人物>
水宮塁(みずみや・るい) 1年。中学野球では神奈川県有数の好投手だった。
津灯麻里(つとう・まり) 1年。スポーツ万能の少女。遊撃手(ショート)を守る。
千井田純子(ちいだ・じゅんこ) 2年。チーターに変身する俊足の少女。
東代郁人(とうだい・いくと) 1年。IQ156の天才。アメリカでは捕手(キャッチャー)を守っていた。
山科時久(やましな・ときひさ) 3年。バスケ部のスター選手で、中学時代は強肩強打の中堅手(センター)だった。
番馬長兵衛(ばんば・ちょうべえ) 3年。元・改善組の番長。怒ると腕がムキムキの赤鬼と化す。ケンカは負け知らず。
デヴィッド真池(まいけ) 2年。ロックンローラー。
取塚礼央(とりつか・れお) 2年。高校野球に未練のある幽霊に憑かれたかわいそうな人。
烏丸天飛(からすま・てんと) 1年。烏の口ばしがついた少年。妖怪退治のスペシャリスト。
本賀好子(ほんが・すうこ) 1年。津灯の親友。速読ができる。
柳生妃良理(やぎゅう・きらり) 理事長の娘で、家庭科教諭。野球部廃部を目論みながら、野球部の監督に就任した。
<本編>
来週の練習試合に向けて、土曜も練習になった。いつものランニングの後、ひたすら守備練習だ。津灯のノックは変幻自在で、休む間も与えなかった。
「はい! 1時間やったから15分休みです!」
強豪チームにいた俺でさえ、まともに立てない。他の連中もぐったりしている。千井田さんはチーターを通り越して猫まんじゅうだ。
「キャッチャーはホット。ベリィベリィタイアード(疲れる)……」
東代はキャッチャーの防具をつけてのノックだから、この中で一番辛そうだ。最初はキャッチャーフライの落下点を計算して上手く捕っていたいが、後半は千鳥足だったもんな。
「津灯、お前だけ、ノック受けないの、ズルくないか?」
「次は水宮君がノッカーやる? あたしも久しぶりにノック受けたいから」
「ノック……、あれ? 俺やったことないか」
いつもクソ親父の地獄ノックを受けてきたが、自分がノックをしたことがない。山科さんに頼もうか、あっ、干物みたいになってファンクラブの手当てを受けてら……。
「手ノックでええよ。水宮君レベルなら100メートルぐらい投げれるでしょ?」
「まっ、まぁ、それなら……」
外野までボールを投げられるかわからんが、またノックを受けるのは嫌だから、手ノックを引き受ける。
15分後、俺がノッカーになり、津灯がショートの位置を守る。
「行きますよー!」
まずはサードの番馬さん目がけてライナーだ。番馬さんは腹で受け止め、ボールをわしづかみにして投げ返す。
「死ね、ゴルァ!」
彼の返球は俺の顔の横をかすめ、後ろの金網を破る。
「激痛ッ!」
バックネット裏の木陰の誰かに当たったみたいだ。死んでなきゃいいが……。
「津灯、ノックやっといて! 俺、見に行くよ」
「あっ、俺様も! 重症やなかったらええが……」
「うん、わかった。おわびに野球部に誘っといてね」
俺と番馬さんは無言で被害者を見に行く。被害者が高額の治療費を要求して、番馬さんとのケンカになりませんように。
木陰には、きゃしゃな体つきの男がいた。マッシュルームカットの銀髪と毛一つない白い肌が特徴的だ。
「あのー、生きてますかー?」
俺が声をかければ、男は目をパチクリ、口をパクパクする。
「通信機! 感度良好。異常無。無問題」
彼は水筒をマイクのように握ってしゃべる。俺と番馬さんは互いに顔を見合わせて、首をかしげる。
「危険。ボール注意。地球人、野蛮」
「誰が野蛮やとぉ!」
「ば、番馬さん落ち着いて」
番馬さんが殴りかかろうとすれば、拳が途中で止まる。ろう人形になったかのごとく、少しも動けない。
「ちょっ、どうなってんねん、これ!」
男の灰色の瞳が、番馬さんの手に集中している。彼がまぶたを閉じると、番馬さんは後ろから突き飛ばされたかのように、前のめりに倒れる。
「サイコキネシスの能力者か……、すげぇ」
「えっと、物を動かしたり、止めたりする能力だよ」
「理解完了。データ入力開始」
何だか自動音声的なしゃべり方だな、この人。今まで出会った人の中で、一番変わってるかも。
すると、目から赤いビームを出して、空中に赤い文字を出し始める。目からビームを出して壁に絵を描く超能力者はいるが、空中に文字を浮かせるのは見たことがない。その文字は、楔(くさび)形文字や象形(しょうけい)文字と違い、子どもの落書きのような謎の形をしている。
「データ入力完了。サイコキネシス。自己能力説明」
「き、君は一体……」
「彼はエイリアンです」
振り返れば、キャッチャーマスクなしの東代がいた。彼はモノクルを押し上げて声高らかに宣言する。
「ナウ、ここがヒストリーの転換点! 私達と彼の出会いが、レボリューションのスタートです!」
目の前のフシギ君が宇宙人とは、にわかに信じられない。だが、東代はIQ156の頭脳をもって、宇宙人説を補強していく。
「ミスター・ミズミヤ&ミスター・バンバ、彼のスキン(肌)をよく見て下さい。ヒューマンが持つべきものがありません」
彼の手や首元をよく観察する。毛が全く生えていないし、毛穴やシミが全くない。うすだいだい色の絵の具でそのまま塗ったように、キレイすぎる肌だ。
「次に彼のアイズ」
彼の目は、絵の具で塗ったようにグレー一色だ。
「体毛や瞳孔(どうこう)の欠如、私達にないハイパーテクノロジー、オートマティックなしゃべり方、以上のポイントをふまえると、彼はエイリアンの可能性が高いです」
東代は名探偵のように彼を指差す。彼は目をつむって、両方のこめかみに人差し指と中指を当てる。すると、俺の脳内にラジオのような雑音が入り、低いナレーター声が響き始める。
<バレてしまったので、説明するんだ。その方のご指摘通り、オイラはオラゴン星人だ。オラゴン星の保養地として、この星がふさわしいかどうか、調査しに来たんだ。もし、この星の住人がオイラ達に害をもたらすならば、迅速に殲滅(せんめつ)して、住みやすくするつもりだ>
こいつの機嫌を損ねたら、人類が滅んでしまうのか? 番馬さんはボケーッと口を開けていて、全く事の重大さがわかっていない。あんたの暴投でヤバいことになってんだぞ。少しは自覚して?
「なるほど。バット(しかし)、テレパシーだけではアンビリーバボー(信じられない)。私達オンリーでリアルの姿を見せられますか?」
彼は制服を脱いで、裸の上半身を見せる。乳首やへそがない。皮膚から汗のような銀色の液体が出てきて、それが薄く平たくなっておおっていく。彼の体は銀色になり、額に第三の目、先端がボーリングの球っぽいものがついた尻尾、トカゲに似た顔立ちで、宇宙人のオーラを出す。
「おお、すんげぇ。ゴムみたいに伸びるなぁ、お前の体」
番馬さんが彼の左腕をつねって、伸びっぷりに驚いている。過度なスキンシップはやめてくれよ……。
<この星では、オイラ達に似た生き物がいないんだ。しいて挙げるなら、ドラゴンだ。ドラゴンと見なされて争いになるのはゴメンだ。オイラはこの星の知的生命体になりすまして、調査し始めたんだ。君達に正体がバレたことを本部に知られたら、オイラは実験体になってしまうから、どうか黙っててほしいんだ>
彼は正座をして、頭を地面に何度も叩きつける。土下座のつもりだろうか?
俺達は地球のため、全人類のため、彼を“地球人”として受け入れることにした。
「えっ? 冗談で言ったのに、ホントに連れて来てくれたん? うれしー!」
津灯が大喜びで俺達を迎える。他のチームメイトも次々と駆け寄って来る。
「1年F組。火星円周(ひぼし・えんしゅう)。よろしく」
拍手の大歓迎。俺と東代はバツが悪そうに、口を結んでうつむいている。番馬さんはつるてか、つるてかと、呪文のようにひとり言を繰り返す。
「さて、どこ守ってもらおっかな。背が高いから、ファースト向きやけど」
「ノー! ファーストはオレの聖域! ロックンローラーは1番じゃないとダメだ!」
真池さんが全力で走って、一塁を抱きしめて動かない。
「じゃあ、ライト守ってもらえる? ボールが飛んできたら、このグローブでキャッチしてね?」
「グローブ。捕球。了解」
火星は腕を振らずにライトまで走っていく。忍者走りをする宇宙人、奇妙なコラボだ。
「水宮君、手ノックでお願い!」
火星に捕球の様子を見せるため、俺はライト以外にボールを投げる。火星は同じ外野の山科さん・烏丸さんがボールを捕る様子を、じっと観察している。そして、ゆっくりとフェンスに引っつく超後退守備を取る。
そろそろ火星の方に投げるか。あんな守備位置では、浅いフライが全部ヒットになりそうだが。
ライトフライになるよう投げてみる。火星は打球を見ながら、忍者走りで落下予測地点へ。落ちる間際にグローブを出してキャッチした。
「ナイスキャッチ!」
「野球。興味津々」
火星はボールの縫い目をレーザーで照らして見ている。彼は無表情だが、きっと楽しんでいるに違いない。
人類の危機が去ったと同時に、浜甲野球部が強くなって良かったなぁ。
(初の練習試合まであと8日)
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