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ゲームセットは聞こえない~超能力野球奇譚~ 1回裏 野球アンチと宇宙人とゲーマー 8球目 柳生理事長の娘は慌てない

前回のお話し↓

ゲームセットは聞こえない~超能力野球奇譚~ 1回表 浜甲野球部復活!? 7球目 野球は9人いないと始まらない - タカショーの雑多な部屋

 

<前回までのあらすじ>

 津灯麻里(つとう・まり)が水宮塁(みずみや・るい)を野球部に入部させるために2日で8人集めて、ついに浜甲学園の野球部が復活した!

 

<主な登場人物>

水宮塁(みずみや・るい) 1年。中学野球では神奈川県有数の好投手だった。

津灯麻里(つとう・まり) 1年。スポーツ万能の少女。遊撃手(ショート)を守る。

千井田純子(ちいだ・じゅんこ) 2年。チーターに変身する俊足の少女。

東代郁人(とうだい・いくと) 1年。IQ156の天才。アメリカでは捕手(キャッチャー)を守っていた。

山科時久(やましな・ときひさ) 3年。バスケ部のスター選手で、中学時代は強肩強打の中堅手(センター)だった。

番馬長兵衛(ばんば・ちょうべえ) 3年。元・改善組の番長。怒ると腕がムキムキの赤鬼と化す。ケンカは負け知らず。

デヴィッド真池(まいけ) 2年。ロックンローラー

取塚礼央(とりつか・れお) 2年。高校野球に未練のある幽霊に憑かれたかわいそうな人。

烏丸天飛(からすま・てんと) 1年。烏の口ばしがついた少年。妖怪退治のスペシャリスト。

本賀好子(ほんが・すうこ) 1年。津灯の親友。速読ができる。

 

<本編>

 浜甲学園の校長室では、ロッキングチェアに座った校長が、生徒の写真名簿をニヤニヤしながら見ている。

 

「フフフ。女子100mの日本代表に、バスケのスター選手、IQ156の天才高校生もおる。我が校の知名度アップで、ワシもTVに映るで」

 

 校長はヤギのようなあごひげをさすりながら、インタビューを受ける妄想をし始める。

 

「えー、我が校は生徒の自主性を重んじてまして、それが好成績を生み出しのだとおも――」

「甲本(こうもと)校長、大変ですわ!」

 

 教頭が血相を変えて、校長室に入ってきた。校長は現実に戻されて少し顔をふくらませたが、すぐに仕事モードの面長の顔に切り替える。

 

「どないしたんや、乙村(おつむら)教頭」

「陸上部の千井田さん、バスケ部の山科君、新入生の東代君がみんな野球部入りですわ!」

「なっ、何やとぉ!?」

 

 校長は立ち上がって目を見開く。脂ぎった顔の教頭はハンカチで顔をぬぐいながら、入部の経緯を説明し始める。

 

「なんでも、1年の津灯という生徒が野球部作りたい言うて、色んな勝負して他の部活の生徒を引き抜いたそうですわ。2日間で9人も集めて、野球部復活の条件を満たしたそうで……」

「アカンアカン! んなモン、廃部や!」

「しかし、生徒たちの自主性を教師が妨害するのはどうかと……」

「おお。なら、どうすれば……」

「廃部にする方法は、いくらでもありますよ」

 

 バラの香水をまとわせた、紺のスーツの女性が入ってきた。彼女はつかつかと2人の方へ歩み寄る。

 

「おお、理事長の娘の柳生(やぎゅう)先生!」

「どんな方法があるんですか?」

「そうですね……。例えば、部員の誰かが暴力を振るってしまう、元・改善組の番馬君あたりがやりそうなケース。これは彼に恨みを持つ生徒をけしかけたら、上手くいきそうですね」

 

 柳生先生は指を立てながら、流れるようにしゃべる。

 

「2つ目のケースは、部員の飲酒・喫煙。師匠が大酒飲みの烏丸君、タバコをくわえながら演奏するロッカーに憧れる真池君辺りが、うっかりやるかもしれませんね」

「ほほう。問題を起こしそうな生徒がおるんやね」

「3つ目のケースは、活動実績の乏しい部活を、愛好会に格下げできるという校則。実際に、去年、パソコン研究部を研究会に格下げして、予算を0にしています。ただでさえ、お金がかかる野球ですから、予算が無くなれば存続は不可能ですよ」

「つまり、野球部が夏の大会で早々と負ければ、廃部に追い込めるというワケですね?」

「その通りです、教頭先生。部員を引き抜かれた部活の先生や生徒の不満を利用すれば、夏の予選敗退で廃部の条件を押し付けることが出来るでしょう」

 

 校長と教頭は明るい表情を浮かべて、バブルヘッド人形のようにうなずいている。彼女の威風堂々たる口調と観音様のようにやさしい顔立ちは、人々を魅了するに十分である。

 

「そのためにも、私が野球部の監督になって、初戦で敗退するように導きます!」

「おおお、素晴らしい。柳生先生、迷采配を期待しとるよ」

「あなたは教師の鑑ですわ!」

 

 彼女は腰に手を当てて不動の姿勢を取る。自分が愛する高校に野球部はいらない。野球部消滅の強い意志が、彼女・柳生(やぎゅう)妃良理(きらり)を突き動かすのだ。

 

***

 

(ここから水宮視点)

 

 10人の野球部員が集まったが、これで終わりじゃない。次は監督・顧問が誰になるかだ。明日の職員会議で決めてくれるらしい。

 

「どんな人が来るかなぁ」

「生徒指導の鉄家(てつげ)かもな。番馬さんいるから」

 

 俺は鉄アレイを持ちながらスクワットしている番馬さんをチラ見する。今日は色んな先輩と話してきたが、未だに彼と会話できない。

 

「あっ、そうだ! 水宮君、キャプテンになってくれる? 部員の中で一番野球知っとるし」

「津灯の方がキャプテンに向いてると思うぞ。何だかんだ言って、ここにいるほとんどは、津灯がゲットしてきたんだし」

 

 津灯との勝負に負けて、陸上部やバスケ部のエースなどが入部した。彼女の勝負に対する執念は、俺も見習わないといけない。

 

「ホンマにあたしがキャプテンでええんかな」

「じゃあ、聞いてみるか。全員集合!」

 

 俺が手を叩いて呼べば、体育の授業始めのように全部員が集まってくる。

 

「えー、キャプテンは津灯さんがいいと思いますが、皆さんはいかがでしょうか?」

「麻里ちゃんでええよー」

「ウサちゃんがキャプテンか。僕は2年のブランクあるから、妥当なところやね」

「よっ! 津灯キャプテン!」

 

 皆は津灯のキャプテン就任に不満を持っていないようだ。俺が彼女に笑いかければ、彼女は照れ臭そうに鼻の下をこする。

 

「あっ、ありがとう。頼りないかもしれんけど、みんなよろしくね!」

「キャプテン! ファーストトレーニングは何にしますか?」

「そうね。えっと、ランニング、グラウンド20周しましょう」

 

 意外と普通の練習だな。と思いきや、彼女は道具箱を引っ張り出して言う。

 

「利き腕でボールを持って、反対側はグローブをつけて下さい。それで走りましょう!」

 

 ボールを握り、グローブをつけながらのランニング。どんな効果があるのだろうか。

 

「では、レッツゴー!」

 

 左利きは取塚さん(夕川)と千井田さんで、俺を含めた8人は右利きだ。

 

 前半の10周は、周回遅れになった津灯の親友をのぞき、皆が俺と津灯と山科さんのペースについて来れた。しかし、後半からは一変する。

 

「ハァハァ。握力がゼロになる。クレイジーラン」

「グローブってこんな重かったやん?」

 

 走っていく内に握力が低下し、ボールをつかむのが難しくなる。さらに、グローブの重みで、手が思うように振れない。なるほど、これは普通のランニングの倍の負荷がかかり、野球ボールに慣れるから、一石二鳥だ。

 

「あっ。言い忘れとったけど、ボール落としたり、グローブ外したりしたら、10周追加するんで、皆さん気ぃつけてねー」

「おっ、鬼や! 津灯キャプテンの鬼ぃ!」

 

 赤鬼番長が腹をたぷんたぷん揺らしながら文句を言う。

 

 かくして、新生・浜甲学園野球部は、大量の汗と文句でスタートを切ったのだ。

 

***

 

 ボール持ちランニングの後は、キャッチボールと素振りというオーソドックスな練習だった。翌日も同じメニューをこなす。

 

「そろそろ職員会議が終わる頃やん」

 

 チーター化した千井田さんが走り打ちしながら言う。

 

「どんな人が監督かなぁ。出来たら、野球に詳しい人がいいな」

「野球無知の監督やったら、うさちゃんが影の監督をすればいい」

「影の監督……、何やらラスボスみたいでカッコええなぁ」

 

 烏丸は口ばしを半開きにしたまま、津灯に見とれている。グラウンドの集団除霊以降、彼はよく彼女の近くにいる。津灯は男子人気高いから、早く告白した方がいいぞ。

 

「おっ。ウワサをすればシャドウが差す。誰か来たよ」

 

 真池さんが指さす先に1人の人物がいた。その人の顔は大きな段ボール箱に隠れていた。ふらつきながら歩いて、危なっかしい。

 

「俺様が持つわ、先生」

「ありがとう。助かるわ」

 

 怪力の番馬さんが荷物を受け取れば、片手で肩に乗せて運んでいく。段ボール箱がなくなり、先生の顔が判明する。

 

 先生は面長で、常に笑っているような細い目、雪のように白い肌、自己主張の少ない薄い唇、まさにアジアン・ビューティーな方だ。バラの香りと紺のスーツがよく似合う。

 

「今日から野球部の監督兼顧問になった柳生妃良理(やぎゅう・きらり)よ。よろしくね!」

 

 スチュワーデスみたいにはきはきしたしゃべりと、丁寧なお辞儀だ。

 

「グル先、よろしくやん!」

「グル先? って何です、千井田さん?」

「柳生先生はフランス料理やイタリア料理などの世界各国の料理、さらにB級グルメにも詳しいから、グルメな先生、略してグル先って呼ばれとるやん」

 

 グルメな先生ね。ということは、俺達に美味いご飯をごちそうしてくれるのかな?

 

「グル先あらためグル監ってことやね。こちらこそよろしくお願いします、柳生先生っ」

 

 山科さんがハートマークの瞳を柳生先生に向ける。彼女は先輩のアピールに応えることなく、視線を段ボール箱の方に向ける。

 

「あっ、あの箱の中にバナナ入ってるから、皆で食べてね」

 

 空腹の俺達は我先にと段ボール箱に群がる。いつもは朝食のおまけみたいなバナナが、スウィーツのごとく甘く感じられる。しかも、一本食べただけなのに、ゴリラみたくムキムキになったと錯覚するほど、体内に気力が満ちてくる。

 

「お次はティーバッティングやるよー」

 

 やっとボールが打てる。皆のテンションが上がって、ライブ会場のようだ。

 

 ティーバッティングは、ティーの上にボールを置き、そのボールを打つ練習だ。初心者がいきなり動くボールを打つのは難しいからねぇ。

 

 10回ボールに当たったら交代というルールで、1人ずつティーバッティングを行った。待っている人は、各々のポジションについて、飛んだボールを拾う。打撃・守備両方がこなせて無駄がない。

 

 同じティーバッティングでも、各自の打球に特徴が出てきた。以下、俺の見た感想ね。

 

津灯

 引っ張り、センター返し、流し打ちをまんべんなく行う。ラストはホームランを狙ったのか、やたら高いピッチャーフライだった。

 

千井田

 内野ゴロが多い。内野安打狙いか?

 

東代

 バットのスイング速度や角度を計算したものの、ヒット性の当たりは0。

 

山科

 経験者なので、ホームラン2本、ツーベースヒット級の当たり3本という好成績。

 

番馬

 とにかく空振りが多い。ボールに10回当たるまで、50回近くかかった。フェンスの金網を突き破るホームランを放った。当たれば飛ぶ典型的なバッターだ。

 

真池

 バットの重さに慣れていないため、スイングが波打っている。ロックンローラーらしからぬ力のない打球ばかり。

 

烏丸

 意外と野球センスが高く、バットをコンパクトに振りぬいた。ライナー性の打球が多くて、ヒット性の当たりは7本。

 

取塚(夕川)

 ホームラン狙いのアッパースイングが目立つ。外野フライがほとんどで、ホームランはナシ。

 

本賀(ほんが)

 バントしたかのように打球が死んでいる。

 

 久々のティーバッティングだが、ヒット性の当たり4本でまずまずの結果だ。津灯のファインプレイで2回ほどアウトになる。

 

 

 野球未経験者が多い中、番馬さんや烏丸という掘り出し物が見つかって良かった。あとは守りがどうかだな。

 

「今日は金曜だから、皆さんで中華料理店に行きましょう」

 

 グル監ありがとう。アルカイックスマイルな顔立ちも相まって、彼女が観音様に見えてくる。

 

 皆は後片付けをてきぱき行って、中華モードに入った。

(続く)

 

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