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ゲームセットは聞こえない~超能力野球奇譚~ 1回表 浜甲野球部復活!? 7球目 野球は9人いないと始まらない

前回のお話し↓

ゲームセットは聞こえない~超能力野球奇譚~ 1回表 浜甲野球部復活!? 6球目 日本の幽霊は足がない - タカショーの雑多な部屋

 

<前回までのあらすじ>

 津灯麻里(つとう・まり)は浜甲学園野球部を復活させるため、好投手だった水宮塁(みずみや・るい)を勧誘する。しかし、彼は2日で8人集めないと入部しないと言う。津灯はチーター娘・千井田純子(ちいだ・じゅんこ)に100m走、IQ156の天才・東代郁人(とうだい・いくと)にチェス、バスケットボールのスター選手・山科時久(やましな・ときひさ)にフリースロー対決で勝利、改善組の番馬長兵衛(ばんば・ちょうべえ)とロックンローラーのデヴィッド真池(まいけ)と高校球児の幽霊に憑かれた取塚礼央(とりつか・れお)と霊能力者の烏丸天飛(からすま・てんと)も入部した。これで、水宮入部まであと1人だ!

 

<本編>

 

 セミがけたたましく鳴く中、神奈川県の準決勝は、最終回の大事な局面を迎えていた。

 

 俺達の湘南キングフィッシャーズは、相手投手を攻め立てて、二死(ツーアウト)ながら満塁の大チャンスを作った。打席に立つのは3番の俺、今日は2本ともヒットを打ってて絶好調だ。

 

「ルイ打てよー! ホームランじゃあ!」

 

 ベンチの親父がメガホンで応援する。言われなくとも、大きいのを狙うつもりだ。

 

 相手投手の刈摩(かるま)は、俺の前の2人を四球(フォアボール)で歩かしている。ここはストライクを入れたいところ。初球を狙い打ってやる。

 

「これで決める! アイアンボール!」

 

 相手が投げたボールが鉄球に変化する。ど真ん中にきたので打ったが、ボテボテのピッチャーゴロになってしまった。俺は全力で走るも、ファーストにボールが送られてゲームセット。

 

 俺の中学野球は終わってしまった。

 

 試合後、親父が俺を正座させて説教し始める。

 

「何であんな超能力ボール打ったんだ? 超能力を使えるのがあと1回だったから、見逃せば良かっただろう?」

「ごめん。初球から打たなきゃと思って」

「バットを止める・投げる、わざとファールにするなど、色々な方法があんだろ? 俺が教えたことを忘れたのか?」

 

 親父は腕を組んだまま、ゴリラみたいに怖い顔をしている。

 

「忘れてない。ちゃんと覚えてる」

「いいや、嘘だ。お前は忘れてる。4回表にタイムリーくらった時も、ピンチでもあえてボールから入る教えを忘れてただろう?」

「だったら、ちゃんと指示してくれよ!」

「指示待ち人間がプロに行けるか! 俺の指導を覚えた上で、ちゃんと自分で考えろ!」

 

 親父がメガホンを地面に叩きつける。

 

「んなのムリだよ!」

「なにぃ!? 俺の言うことが聞けないのかぁ!」

 

 親父の右拳が俺の頬に、当たらなかった。とっさに母さんが俺の前に飛び出して、腹で受け止めたのだ。

 

「もうやめて! ルイはあんたの道具やない!」

 

 普通の親なら、自分のあやまちに気づいて「やりすぎた」と言って、反省するはずだ。だが、クソ親父は違った。

 

「うっせぇ! 俺の夢をジャマすんなぁ!!」

 

 母さんの腹に鋭い蹴りが入る。俺の目の前で、母さんがひざから崩れ落ちる。俺はあまりのショックに言葉を失う。これが夢なら早く覚めてくれ。真夏の夜の悪夢であってほしい。

 

***

 

 目が覚めると、自分の部屋の机につっぷしていた。また、あの日の悪夢を見ていたようだ。あの日以来、親父と母さんは口を聞かなくなり、9月に離婚した。今年の4月から、俺は母さんの実家に引っ越して、今に至る。

 

 親父に強制的にやらされていた野球には二度と関わらないと、決めていた。俺が野球をやったら、母さんにクソ親父を思い出させてしまう。もう母さんを悲しませたくない。

 

 だが、その決意は、津灯との出会いをきっかけに揺らぎ始める。

 

「ルイ、なんか女の子来とるで」

 

 母さんがノックしながら教えてくれる。女の子って、まさか津灯じゃないだろうな。

 

 

 ドアを開ければ、津灯と知らない女子が立っていた。

 

「水宮君、9人そろったよ! これで、水宮君も野球部やね!」

「私なんか野球ムリやってぇ。麻里ちゃんのアホ―」

 

  青縁の眼鏡をかけた女子が、津灯の肩を文庫本で叩く。

 

「スーちゃんは速読のプロやから、きっと水宮君のストレート打てるよ」

「んもう、麻里ちゃん大げさなこと言わんといて」

 

 2人はかなり仲良しのようだ。親友が近くにいない俺から見れば、とてもうらやましい。

 

「まさか、2日で8人集めるとはなぁ。わかったよ。明日から野球部員として、あいつらをビシバシ指導してやるよ」

「ホンマに? ありがと、水宮君。イケメーン!」

「お手柔らかにお願いします」

 

 2人が頭を下げて帰って行くと、母さんがえびす顔で俺に声をかける。

 

「とても面白そうな子やないの。こっちで友人出来て良かったね」

「ああ。母さん、俺が野球やっても大丈夫か?」

 

 母さんの表情が一瞬くもったが、すぐに快晴の笑みに変わる。

 

「ルイがやりたいんなら、やればええよ」

「わかった。ありがとう、母さん」

 

 俺はそう言って、自室に戻る。押入れの奥からグローブやバットなどが入った段ボール箱を取り出す。クソ親父の命令じゃない、俺の意志で野球をやるんだ。

 

 チーター、天才、赤鬼番長、カラスなど、クセの強いキャラと一緒なら、きっと愉快な野球が出来るだろう。明日になるのが、とても楽しみだ。

 

(1回表終了)

 

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