前回のお話し↓
ゲームセットは聞こえない~超能力野球奇譚~ 1回裏 野球アンチと宇宙人とゲーマー 10球目 宇宙人の不在は証明できない - タカショーの雑多な部屋
<前回までのあらすじ>
浜甲学園の野球部が復活し、練習試合の相手も決まった。さらに宇宙人の火星円周(ひぼし・えんしゅう)も入部し、11人になった。
<主な登場人物>
水宮塁(みずみや・るい) 1年。中学野球では神奈川県有数の好投手だった。
津灯麻里(つとう・まり) 1年。スポーツ万能の少女。遊撃手(ショート)を守る。
千井田純子(ちいだ・じゅんこ) 2年。チーターに変身する俊足の少女。
東代郁人(とうだい・いくと) 1年。IQ156の天才。アメリカでは捕手(キャッチャー)を守っていた。
山科時久(やましな・ときひさ) 3年。バスケ部のスター選手で、中学時代は強肩強打の中堅手(センター)だった。
番馬長兵衛(ばんば・ちょうべえ) 3年。元・改善組の番長。怒ると腕がムキムキの赤鬼と化す。ケンカは負け知らず。
デヴィッド真池(まいけ) 2年。ロックンローラー。
取塚礼央(とりつか・れお) 2年。高校野球に未練のある幽霊に憑かれたかわいそうな人。
烏丸天飛(からすま・てんと) 1年。烏の口ばしがついた少年。妖怪退治のスペシャリスト。
本賀好子(ほんが・すうこ) 1年。津灯の親友。速読ができる。
火星円周(ひぼし・えんしゅう) 1年。動作がおかしい。実はオラゴン星人。
柳生妃良理(やぎゅう・きらり) 理事長の娘で、家庭科教諭。野球部廃部を目論みながら、野球部の監督に就任した。
<本編>
土曜の練習でクタクタになった俺は、翌日の日曜はゲームとマンガ三昧した。出来たら、もう1日休みたいと思っても、日曜日はやって来てしまう。
俺は心の中で何度もため息をつきながら登校する。正門前に来ると、笑顔の津灯が立っている。
「おはよう、水宮君。今日も頑張ろうね」
「お、おう。ケガしない程度に頑張るよ」
先週出会った時からずっと、彼女は太陽の微笑みを浮かべている。どうしてこんなに明るくいられるのか、その秘訣が知りたいよ。
「初の練習試合まで1週間切ったから、そろそろオーダー決めたいね」
「そうだな。ピッチャーは俺、キャッチャーが東代、ショートが津灯で決まってるが、他は……」
「個人的には番馬さんをファーストにしたいけど、真池さんがゴネるからファースト。そしたら、番馬さんがサードで、外野は火星君、山科さん、烏丸さん、千井田さんの中からやね」
一塁手(ファースト)は色んな送球を確実に受け止める必要があるので、背が高い選手がふさわしい。だが、ロックンローラー・真池がファースト(一番)にこだわるせいで……。
「野球経験者の山科さんはセンターに置いときたいし、ホームランをキャッチできる飛行力がある烏丸さんはレフトかライトがいい。それじゃあ、千井田さんか火星のどっちかをセカンドに回すか」
「うーん。千井田さんは小回りが利かないし、火星君は背が高すぎてセカンドに向いてないね」
「本賀さんはどうなんだ?」
津灯の幼なじみの本賀は、図書委員と野球部を掛け持ちしている。お世辞にも運動神経が良いとは言えない。
「スーちゃんはダメ。運動量の多いセカンドはアカンと思う」
「取塚さんは左投げだからセカンドはムリ。ああ、セカンド不足だ」
11人もいるからと安心していたら、思わぬ穴が発覚した。
「でも大丈夫。あたしがバレー部かテニス部あたりから誘ってみるから」
「おう。それは頼もしいな」
俺達は教室前に来たところで、いい方向に話がまとまった。しかし、校内放送がそれを許さなかった。
「1年B組の水宮君、1年C組の津灯君、至急、校長室に来て下さい」
***
校長室は、たくさんのトロフィーや賞状が飾られていた。ベッド代わりになるほど長い木の机に、校長と教頭がいた。
俺達はキシキシ鳴るパイプ椅子に座らされて、校長・教頭と向かい合った。重苦しい空気の中、校長が口を開く。
「水宮君と津灯君。何で君達がここに呼ばれたのか、わかるかな?」
津灯は「さぁ」と、真っ正直に肩をすくめる。校長はヤギみたいなヒゲを触りながら、高圧的な口調で喋り出す。
「2人は野球部の勧誘と称して、陸上部の千井田君、バスケ部の山科君など、各部活の優秀な選手を引き抜いた。これに対して、各部活の顧問や生徒から批判の声が上がっとるんや」
「具体的に言うと、君達が彼らを野球部に入れたことで、陸上部とバスケ部の全国大会出場の可能性が低くなってしまったんですわ。これは、部活のみならず、我が校にとって大きな損失ですわ。必ず誰か入る公立ならともかく、部活の活躍で人気が左右される私立やからね」
校長はワイングラスの水を一気に飲みほし、グラスをテーブルに叩きつける。彼の顔は怒りのしわが刻まれている。
「先週の職員会議において、他の部活に所属する奨学生、または2年生以上の部員の勧誘禁止を決めた。本日の終礼で、全校生徒に通達する予定やったが、君達には先に伝えておこうと思うてな」
「へぇー、そうなんですね。先に伝えて下さり、誠にありがとうございます」
津灯は丁寧に頭を下げる。背筋がピンと立っていて、お行儀の良い姿勢を崩さない。校長は俺達を見て冷ややかに笑う。
「あと、この規則を破った部活は活動停止、さらに悪質な勧誘を続ける場合は廃部や」
「わかりました。今後、あたし達は、他の部活の方を勧誘しないよう、気を付けます」
津灯につられて俺も慌てて頭を下げる。校長の上から目線はとても腹が立つが、むやみに口ゲンカになって活動停止にされたくはない。頭の中で校長のあごヒゲを引っ張っておこう。
校長室を出れば、津灯は大きく伸びをして脱力する。
「あー、朝から疲れたわぁー。校長先生、めちゃ怖いなぁ」
「どうすんだよ、津灯。これで、セカンドに向いてそうな体育会系の奴を誘えなくなったぜ」
「どんなルールにも抜け道があるよ。他の部活の生徒がダメやったら、どの部活にも“所属していない”子を入れたらええだけの話やもん」
俺達に残されたのは、帰宅部の勧誘か。とてもセカンドに向いている俊敏そうな奴はいないと思うが、果たして……。
***
昼休みに、野球部はグラウンドに緊急招集された。帰宅部ドラフト会議の始まりだ。
「野球のセカンドに向いていそうな子がいたら、教えて下さい!」
津灯が手を合わせてお願いすれば、真っ先にIQ156が挙手する。
「ミスター・バンバのフレンズ2人はどうです? 彼らはクイックリー(俊敏)なコンビです」
番馬さんの子分の白山(キツネ)と八百谷(タヌキ)は、相手を化かすことに長けているから、意外といいかもしれない。
「アカン。あいつらは俺様に迷惑をかけたことを反省して、今は寺で修行中や。当分、野球部に入らへん」
「うーん、残念。他には?」
「俺っちのクラスに、いつも人形と一人二役やってる子がいるけど、幽霊や妖怪憑いてないみたい。そやから、余計に怖い」
「その子の運動神経は?」
「可もなく不可もなく」
烏丸が口ばしを閉じて首を横に振る。津灯は目を小さくして残念がる。
これ以上、クレイジーな奴が入ってこられたら困るから、俺的には良かったけど。
「あたいのクラスの宅部(やかべ)って子は、まぁまぁ速いやん。帰るスピードは、あたいより速いやん」
「身長はどれぐらいですか?」
「真池より低いと思う。ソフトボール大会でも結構打ってたやん」
小柄(160センチちょいの真池さんより低い)と俊敏(千井田さんより速い足)を満たした。これはドラフト1位指名確定だ。
「それじゃ、今日の放課後、皆さんで宅部さんを勧誘しましょう」
皆は利き腕を突き出して、同意の雄たけびを上げる。
***
千井田さんはクラスの男子をけしかけ、終礼が長引くように仕組んだ。男子達が担任に彼女は出来たかとからかい、担任がムキになって否定する。そのやり取りで終礼は長引き、廊下に野球部全員集合だ。
さよならと同時に、小柄でくりっとした瞳の宅部さんが教室から飛び出す。100メートルの金メダリスト級のロケットスタートを見せるも、山科&番馬の双璧は越えられない。
「なに?」
宅部さんはうさん臭そうに眉間にしわを寄せる。
「野球部に入らへんか?」
「野球部で人生観変えようよ、僕と一緒に!」
「断る」
即答で即帰宅。俺や千井田さんもついて行けないほどの早歩き。ただ、津灯はくらいついて、彼の前に立って通せんぼする。
「待って! 家でゲームもいいけど、野球のゲームも面白いよ。今入ってくれたら、日曜のゲームはセカンドのスタメンで出すよ!」
セカンドのスタメン確約でも、宅部は津灯と壁の間をすり抜けていく。
「日曜の朝10時、うちの野球グラウンドでスタート! 相手は千葉の夢国学苑(ゆめくにがくえん)! よろしく!」
津灯がメガホン越しで宅部に伝える。これはドラフト指名拒否確実だな。
「彼が来なかったら、私がセカンドやるわ」
「ありがとう、スーちゃん」
津灯と本賀の2人は熱いハグをかわす。ファーストが真池さん、セカンドが本賀さんだと、ザル守備すぎんだろ。
やっぱり、セカンドは宅部さんがいいな。
***
<ここから宅部視点です>
宅部カオルが小さい頃は、かけっこ、計算、漢字のきれいさ、ケンカなど、同じクラスの誰よりも優れていた。特に、野球に関しては、6年の先輩より速いボールを投げられ、2年から試合に出ていた。
両親やチームメイトからは、未来のメジャーリーガーと言われる。彼は周囲の期待に応えるべく、メジャーリーガー養成ギブスや重いコンダラーで特訓を積んだ。
しかし、5年生になると伸び悩んでしまう。幼少期の筋トレがアダになって、身長が伸びなくなってしまった。それでも、小学校時代はエースの座を守り続けた。
中学生になると、強豪の天王寺ビースターツシニアに入った。そこではピッチャーとしてレギュラー獲得を目指したが、同期に快速球を投げる桃野(ももの)がいて、リリーフ投手になった。登板機会は少なかったが、打たせて取るピッチングで抑えた。
2年生になると、後輩に好投手が入ったので、野手転向を言い渡される。肩があまり強くないので、セカンドをよく守った。抜群のバットコントロールと俊足を活かし、2番打者として活躍した。
だが、3年生になると、自分よりも身長が高く、長打力のある1年生の鹿野にセカンドのレギュラーを奪われ、ベンチを温めるようになった。選手層が厚いチームとあって、1打席の出場機会を得ることすら難しかった。
この時から、彼は打撃投手(バッティング・ピッチャー)を務めるようになる。コントロールが良く、打ちやすいボールを投げるので、チームメイトからの評判は上々だった。
「ホンマ打ちやすいわぁ」
「宅部がバッピーなってから、打率が2分も上がったで」
「ありがとう、宅部!」
チームメイトから感謝の言葉をもらい、無言で笑みを浮かべる宅部。しかし、内心ではこんな自分が嫌だった。試合に出られず、裏方でチームメイトを支えるなんて、スーパースターだった小学生の頃を思えば、屈辱的だった。
その年の夏にビースターツシニアは全国優勝を遂げ、ベンチ入りしていた宅部も金メダルをもらった。しかし、彼は帰宅後に、そのメダルを壁に投げつけて叫んだ。
「こんなメダル、いらん!」
彼は中学で野球を辞めて、好きなゲームにのめり込んだ。野球ゲームの自分は160キロを投げて、ホームランを打てるスーパースターでいられる。現実のクソみたいな自分を忘れられるから
幸せだった。
持ち前の器用さでゲームの腕前は上達し、COMAI主催の全日本野球ゲーム大会で優勝を果たした。プロゲーマー転向の誘いの声もかかった。彼は高校卒業したら、プロのゲーマーになりたいと思っていた。
そんな中で、野球部の勧誘。当然のように断った。だが、心の中でどこか引っかかる所がある。
「俺は野球したいんか?」
彼は首を横に振って、テレビゲームを始める。
いつものように、ベースボール・フレンズのゲームで、オンライン対戦を始める。
「ん? 何やこれ」
対戦を申し込んできたチームの中に、浜甲学園があった。紹介コメントが「セカンドがほしい!」になっている。
「まさか、さっきの奴……?」
彼が浜甲学園を選べば。試合前のあいさつがかわされる。
「よろしくお願いします」
「宅部さん、私達が勝ったら、野球部に入って下さい」
「やっぱり、そうか……」
彼は腕を回し、絶対に勝つと気合を入れた。
***
苦戦を強いられると思ったが、打球から逃げたり、ボールの落下地点の憶測を間違ったりと、相手の守備が酷かった。18-0の圧勝だった。試合後のあいさつを交わす。
「ありがとうございました」
「ありがとうございました。いつでも、セカンドとリリーフピッチャーは空けてます」
「ピッチャー?」
自分がピッチャーだったことを知っているのか? 彼は浜甲学園野球部のことが気になり始めた。
「今からでも、野球のスーパースター目指せるかな……」
彼はクローゼットを開けて、ガムテープが何重にも貼られた段ボール箱を取り出す。その中には、グローブとバットとスパイクが入っていた。
「やるぞ……!」
***
津灯があんなにゲーム下手だとは……。これで、宅部さんのセカンドはパーになり、本賀さんか千井田さんのザル守備確定だ。こうなったら、三振か外野フライでアウトを取るしかない。
放課後、学校近くの公園でピッチング練習をしに行く。肩痛めたらいけないので、30球ぐらいにしておこう。野球用グラウンドの近くに備蓄(びちく)倉庫があったので、そこの壁を使わせてもらう。
「おりゃあ!」
倉庫の壁がドンと音を立てる。140キロぐらい出てるか? ブランクを感じさせないスピードボールだぜ。
「お次はスライダー」
グイッと、ほぼ真横に曲がった。いい感じだ。
「チェンジアップ」
遅いボールがストライクゾーン低めにギリギリ入る。緩急もバッチリ。これなら、夢国といい試合できそう。
「ピッチャーはコントロールやで」
後ろを振り向けば、さっきの宅部さんがいた。ピッチャー用のグローブと野球ボールを持っている。えっ、野球ゲーム勝ったのに、何で?
「宅部さん!?」
「ちょっと、どいて。その壁にストライクゾーン書くから」
彼はチョークでストラックアウトのように、9つの枠を書いた。
「今から10球投げて、この枠を何個つぶせるか勝負しよ。勝った方が浜甲のエースってことで」
「何だと……?」
野球部に入るどころか、俺とエース対決まで挑んできたんだけど……。
(初の練習試合まであと6日)
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