タカショーの雑多な部屋

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ゲームセットは聞こえない~超能力野球奇譚~ 1回裏 野球アンチと宇宙人とゲーマー 12球目 エースは2人もいらない

前回のお話し↓

ゲームセットは聞こえない~超能力野球奇譚~ 1回裏 野球アンチと宇宙人とゲーマー 11球目 ゲーマーは徹夜を惜しまない - タカショーの雑多な部屋

 

 

<前回までのあらすじ>

 浜甲学園の野球部が復活し、練習試合の相手も決まった。小回りの利くセカンドが必要となり、帰宅部の宅部(やかべ)カオルを勧誘したが断られる。しかし、宅部は水宮とエースの座を賭けたストラックアウト対決を挑んできた。

 

<主な登場人物>

水宮塁(みずみや・るい) 1年。中学野球では神奈川県有数の好投手だった。

津灯麻里(つとう・まり) 1年。スポーツ万能の少女。遊撃手(ショート)を守る。

千井田純子(ちいだ・じゅんこ) 2年。チーターに変身する俊足の少女。

東代郁人(とうだい・いくと) 1年。IQ156の天才。アメリカでは捕手(キャッチャー)を守っていた。

山科時久(やましな・ときひさ) 3年。バスケ部のスター選手で、中学時代は強肩強打の中堅手(センター)だった。

番馬長兵衛(ばんば・ちょうべえ) 3年。元・改善組の番長。怒ると腕がムキムキの赤鬼と化す。ケンカは負け知らず。

デヴィッド真池(まいけ) 2年。ロックンローラー

取塚礼央(とりつか・れお) 2年。高校野球に未練のある幽霊に憑かれたかわいそうな人。

烏丸天飛(からすま・てんと) 1年。烏の口ばしがついた少年。妖怪退治のスペシャリスト。

本賀好子(ほんが・すうこ) 1年。津灯の親友。速読ができる。

火星円周(ひぼし・えんしゅう) 1年。動作がおかしい。実はオラゴン星人。

宅部カオル(やかべ・かおる) 2年。中学時代はバッティング・ピッチャーだった。今はプロ顔負けのゲーマー。

柳生妃良理(やぎゅう・きらり) 理事長の娘で、家庭科教諭。野球部廃部を目論みながら、野球部の監督に就任した。

 

<本編>

 宅部さんと野球部のエースを賭けたストラックアウト勝負。俺はいつもよりボールの握りに気を付けながら、5球で真ん中高め・真ん中低め・内角中・外角中のど真ん中周辺の4つのコースに当てた。次はど真ん中に当てるぞ。
(※外角と内角の区別は右打者の設定)

 

「あれ?」

 

 ど真ん中低めにボールがいってしまった。1番簡単なコースなのに、どうして? その後もど真ん中を狙うも、ことごとく違うコースへ行ってしまう。残り1球になってしまう。

 

「しゃあない、外角低め(アウトロー)狙うか」

 

 だが、力みすぎて低いボールゾーンに……。俺は4個で終わった。

 

「じゃあ、次は俺の番やね」

 

 宅部さんがセット・ポジションから、体の柔らかさが伝わるフォームでボールを投げる。

 球速は俺より遅いが、確実に狙ったコースに当てている。内角高め→内角中→内角低め→真ん中高めで、順番に当てていった。

 

「次は真ん中低めで」

 

 俺が苦戦したど真ん中を避けて、下のコースを狙った。これも見事に当たる。

 

「これで俺の勝ち、浜甲のエースは、この宅部カオルってコトで」
「むうう……」

 

 ゲームばかりやってた人に負けるなんて……。だが、宅部さんは火傷に辛子を塗るウサギのように、追い打ちをかけてくる。

 

「あっ、浜甲はセカンドがいなかったんやね。じゃあ、セカンドは俺が守るから、君はエース(仮)でええよ。困ったときはいつでもリリーフするからね。じゃあねー」

 

 彼は早口でそう言って去って行く。何という奴だ! かくなる上はコントロールを磨いて、ストラックアウト勝負にリベンジして、エース(真)になってやる! 

 その後の数時間、俺は猛烈な投げ込みとランニングを行って鍛えに鍛えた。

 

***

 

 宅部さんに敗北した翌日、彼はグラウンドにいなかった。もしかして、入部しないのかな? 彼に負けたことは秘密にしておこう。

 

 いつものボール持ちランニングの後、津灯キャプテンの指示により、俺と東代はバッテリーの練習を始めた。東代はつま先立ちで構え、キャッチャーらしさがあふれている。

 

 東代は、俺のまっすぐをいい音立てて、キャッチしてくれる。実に投げやすい。本番で彼のIQ156の配球の組み立てが加われば、鬼に金棒、虎に翼と思われた。

 

 しかし、俺のスライダーが捕れない。東代から見て右に鋭く曲がる変化に、ミットがついていけない。2ストライク後にこれじゃ、振り逃げし放題だぜ。

 

「ウップス! ソーリー、ミスター・ミズミヤ」
「おいい。キャッチャーフライの落下点読むの上手いのに、どうしてスライダーが捕れないんだよ。変化量を計算してキャッチしろよー」
「ウェル、ピッチャーはワンセコンド(1秒)よりショートで投げてくるので、計算できません」

 

 半年ぐらい野球から離れていたから、スライダーのキャッチングが下手になったのかも。こうなりゃ、スライダーを封印するのも一つの手だ。

 そうなれば、俺はストレートとチェンジアップの緩急で攻めることに。だが、2球種だけで抑えられるほど、高校野球は甘くない。

 

 俺はマウンド上であぐらをかいて、東代でも捕れそうなスライダーの握りを考える。

 

「どしたん、2人とも?」

 

 津灯がブルペンにやってくる。

 

「オー、ミス・ツトー。私がスライダーをキャッチできなくて、ミスター・ミズミヤが困っています」
「スライダーねぇ。あたしがバッターボックス入るから、何球か投げてみて。その間、東代君はキャッチしなくてええよ」

 

 俺は左打者の津灯に当たる勢いで、スライダーを力投する。東代はボールが彼女に当たりそうになると、目をつむって何か叫んだ。

 

「OK。大体わかったわ。東代君は、水宮君がスライダー投げる時、今構えとる位置から2フィートぐらい横にスライドしてみて。そしたら、捕れるわ」

「サンクス、ミス・ツトー」

 

 そんなアドバイスで捕れるものか。津灯が打席から外れて、東代は安心の吐息をもらす。さぁ、俺のスライダーを捕ってみろ。

 

「アウチ! はっ、入った!」

 

 ミットのへりギリギリだが、ちゃんとボールが挟まっている。もう一丁!

 

「OK! 2フィートジャストです」

 

 具体的な数値がわかれば捕れるなんて、他の野球初心者がうらやむ能力だ。

 

 あとで、こっそり辞書で調べてみたが、2フィートは60センチらしい。もっとスライダーが曲がるよう、磨きたいもんだな。

 

***

 

 俺が投げ終われば、取塚先輩が東代に向かって投げる。

 県予選決勝まで進んだ名投手が憑いているだけあって、俺以上にミットをビシバシ響かせる。

 

「ストレート以外はどうなんだろ」
スローカーブがあるで。水宮、ちょっと打席に立ってみぃ」

 

 俺がバッターボックスに入ると、取塚さんがダイナミックなフォームから、遅くて高目のボールを投げる。すっぽ抜けだ、俺の頭に当たると思いきや、俺の体から逃げるように東代のミットに入る。何という落差があるスローカーブだ。

 

「このスローカーブを打つのは大変だな」
「甲子園の夢がふくらむね!」

 

 津灯はほしいおもちゃが手に入った子どもの顔だ。俺1人だとキツいが、もう1人エース級のピッチャーがいると心強い。

 

 しかし、取塚さんは30球投げたところで、ボールがキャッチャーに届かなくなってしまう。ついにはマウンド上でしゃがみこむ。

 

「情けないのう。もうダウンか」
「ピッチング、しんどい。全身が痛い」

 

 煙状の幽霊がへたばる取塚さんを見てため息を一つ。憑かれたことがないからわからんが、他者に体を乗っ取られるのって、ものすごく疲れるのかな。

 

「30球が全力だと、抑えピッチャーかな」
「ほとんど俺1人が投げるパターンかよ」

 

 日曜の試合がとても不安になってきた。打たれまくって、200球ぐらい投げる羽目になったらどうしよう。

 

「深刻なピッチャー不足のようね」

 いつの間にか、グル監が耳たぶをさわりながら、俺の後ろに立っている。全く気配を感じなかったぞ。この人は忍者(くのいち)か?

 

「早速やけど、部員全員でスピードコンテストを開きましょう」
「スピードコンテスト?」

 

 このグル監の提案が、浜甲野球部の運命を大きく変えることになる。

 

***

 

 グル監の提案により、第1回浜甲野球部スピードコンテストが開催されることになった。ルールは単純で、誰が一番速いボールを投げられるか競うものだ。10球投げて一番速かった球速が個人記録になる。

 

 開催に先立ち、津灯キャプテンがストレートの握り方を皆に教えた。

 

「では、皆さん。ピースサインを作って下さい」

 

 俺と山科さんと取塚さん以外がピースサインをすれば、まるで集合写真だ。

 

「薬指から親指を離してあげて、その間にボールを挟む。親指は縫い目にしっかりかけてね。あとは、残った人差し指と中指でボールを押さえ込む。この2つの指も縫い目にかけるよ。あと、人差し指と中指を離し過ぎると、力のないボールになっちゃうんで気を付けてね」

 

 皆がストレートの握りを習得した。今度は投げ方の説明だ。

 

 津灯はオーバースロー(真上)、スリークォーター(ななめ)、サイドスロー(横)、アンダースロー(下)の4種類を実践する。いずれのフォームでも、彼女の体の動きはしなやかで、速球を投げる雰囲気がある。

 

「スピードコンテストの1位から3位まで、私の特製料理をごちそうしますから、皆さん頑張って下さいね」

 

 皆のシャドウ・ピッチングの勢いが増す。

 

***

 

 スピードコンテストは、50音順で投げていく。

 

 ジャンピングスローの烏丸さんは時速128キロ、チーターハンズの千井田さんは124キロで、まずまずの結果を残した。

 

 東代との対決で体感150キロの速球を投げた津灯は、意外に振るわず131キロ止まり。まぁ、高1の春、女性というハンデで、この数字は立派だろう。

 

 サイドスローの東代は120キロで、弱肩なのが不安だ。30球肩の取塚さん(夕川)は144キロを出す。

 

 番馬さんは鬼と化して、豪速球を投げる。何と148キロ、プロ級だ。東代が捕れないほどの荒れ球ぶりで、打者が立っていたら病院送りだろう。実戦で使うのは難しい。

 

 タコみたいにくにゃくにゃしたフォームの火星は125キロ、ほぼ手投げの本賀は94キロ、ボールがおじぎしまくる真池は116キロで、3位以内は諦めてもらおう。

 

 ついに、俺の出番だ。番馬さんの記録を抜くのは難しいが、140キロを出してやる。セット・ポジションから足を上げて、神奈川県の野球少年を苦しめてきたストレートを投じる。

 

***

 

 俺はぶぜんとした表情でストレッチをしている。未だに昨日のスピードコンテスト4位の結果を受け入れられない。

 

「水宮君、明るく笑ってよー」
「1人暗いと、みんなのムードが悪くなるやん」

 

 津灯と千井田さんがスマイルの押し売りしてくる。笑顔になったところで、昨日のトロトロオムライスは食べられないからな。

 

「だってよ。取塚さんはわかるけど、番馬さんが148キロ、山科さんが138キロっておかしいだろ。番馬さんは野球未経験だし、山科さんは2年ぐらい野球やってなかったのに」

「番馬さんは逃げる相手への投石、山科さんはバスケのスローイングで肩鍛えてたから、おかしくないよ」
「ピッチャー出来そうな人が増えたことに喜べやん」
「んまぁ、そうだけどさ」

 

 夢国学苑戦で俺が打ち込まれても、代わりのピッチャーがいるのは心強い。残る問題はセカンドか……。結局、宅部さん来なかったな……。

 

 ストレッチ、ランニングの後に、守備練習を行う。今日のノッカーは山科さんだ。ファンクラブの応援に後押しされて、打球の伸びが津灯と段違いだ。津灯のノックがマシンガンなら、山科さんはさながらロケットランチャーだ。

 

 相変わらず、セカンドの本賀さんはエラーしまくる。トンネル。ヘディング、キック、お手玉、暴投のエラーのデパートだ。

 

「麻里ちゃん、ごめん。やっぱ、私、セカンド守れへん」

 

 彼女は傷だらけの体をさすりながら、大粒の涙を流す。夏大までならみっちり鍛えられるが、4日後の試合には間に合わない。

 

「うちが守るやん。本賀さんはベンチでお休み」
「千井田さん。セカンドやるんなら、めっちゃ覚えること多いけど、それでも守りたいですか?」

 

 ファーストの送球以外にも、ショートとの連係プレイ、キャッチャーの送球のキャッチ、外野からの中継プレイなど、覚えることはたくさんある。生半可な決意ではどうにもならない。

 

 津灯の怖い顔に押されて、千井田さんは唇を震わせてうろたえる。

 

「う、うう……。そう言われると、何かムリやん」

「ですよね。じゃあ、左だけど、取塚さんに」
「俺がやるよ」

 

 グラウンドに小柄な少年が入って来る。小柄でくりっとした瞳の少年は、宅部(やかべ)さんだ!

 

「宅部カオルです。よろしくお願いします!」

 

 彼は小学生が使うような小さいグローブを右手でパンパン叩いて、俺達にあいさつする。一昨日の冷たい態度と一変して、今日は和やかなオーラを出している、爽やか野球少年だ。

 

 俺達はポカン口で彼を見ていた。

 

「そ、それじゃあ、ノック受けてみるか?」
「はい! よろしくお願いします!」

 

 俺はストラックアウトの敗北の恨みがあったので、ボールをポロポロこぼせと思っていたが、彼の守備は予想以上に上手かった。

 

 センターへ抜ける打球のダイビングキャッチ、真池さんがはじいた打球のキャッチ、津灯との阿吽(あうん)の呼吸などなどエトセトラ。高校生の中に1人、プロ選手が混じっていると言っても、過言ではない。

 

「次はバッティングやるよー」

 

 皆がピッチャー太郎01の速球を空振りする中、宅部さんはレフト方向へ流し打ちする。バットを肩にかついで、いかにも気だるそうな構えなのに、スイングスピードは俺や山科さん以上だ。野球センスの塊すぎる。どうして、こんな野球部のない学校に?

 

「宅部さん、ピッチャーやりますか?」
「いいですよ!」

 

 彼は腕が伸び切った脱力フォームから、急に左ひじをエルボーのように突き出し、ハエを叩く時のごとく素早く投げる。スピードガンは130キロを計測。。

 

「カーブいきまーす」

 

 フォークのように縦に落ちたり、ナックルのように揺れたり、打者の手元で小さく曲がったり、彼のカーブは変幻自在だ。

 

 七色のカーブを見た俺は脱帽してしまう。

 

「ストレートとカーブ投げる時の腕の振りが違うから、それを直したら実戦で使えそうやね」
「夏大までに直しますよ」

 

 スポーツ万能な好青年の宅部さんは、皆から好かれ始めている。あんなイヤミな雰囲気出してた宅部さんは同一人物だろうか? 双子の弟でもいるんじゃないのか?

 

「宅部、中々やるな! だが、オレもじきに追いついてやる! ドントストップミーナウ!」

 

 真池さんが対抗心を燃やして、バットをチャンバラのように振りまくる。そんなに振りまくると、絶対にケガする、あーあ、腰を痛めておじいちゃんになった。

 

「宅部。あたいとベースランニング勝負するやん?」

 

 チーター化して闘志むき出しの千井田さんに対して、宅部さんは「ええよ」とクールな無表情。

 

 打席から一塁、二塁、三塁と順番に踏みながら走って、ホームに帰って来るのがベースランニングだ。ラインが書いてあるトラック1周と違い、自らの頭でゆるやかな孤を描きながら走る必要がある。

 

 しかし、豹突猛進の千井田さんは、塁間をまっすぐ走った。四角形のランニングは、ベースを踏む時にタイムロスが生じる。それでも、14秒23はかなり速い。

 

 宅部さんはベースの角に軽く触れながら、颯爽と走っていく。無駄のない走りで14秒20を叩き出す。チーターガールより速い宅部さんは、サバンナの風だ。

 

 皆の尊敬のまなざしを受けて、宅部さんは前歯を出してはにかむ。小動物の可愛さだ、ズルい。

 

***

 

 宅部さんの活躍が目立った練習後、グラウンドの隅で東代が宅部さんと何か話している。ちょっと気になって近づいてみる。

 

「オー、ミスター・ミズミヤ! 今からミスター・ヤカベのハウスに来ませんか?」
「えー。でも、母さんが飯作ってるからなぁ」
「すぐ終わるから」

 

 宅部さんはか細い声で早口だ。

 

「んー。まぁ、それならいいけど」
「あたしも行く行く!」

 

 津灯が割り込んできた。宅部さんは一瞬目玉焼きの目になったが、じきに能面の表情に戻る。

 

「いいよ」
「グッド! ソー、レッツゴー!」

 

 陽気な2人と違い、俺は名字のごとく水のように冷静だ。あわよくば、宅部さんの高い身体能力の秘密を知り、俺もパワーアップし、ストラックアウトのリベンジしたいところだ。

 

***

 

 宅部さんの家は、マンションの10階で、扉に様々なキャラのシールが貼られている。

 

「ただいま。友人と一緒だよ」

 

 彼が言い終わらない内に、アフロ頭の四角いメガネおじさんが飛び出してくる。

 

「おーう! カオルの友人たち、はじめましてぇん! たくさんゲームあるから、遊んでいってねぇ!」

 

 口と同時に身振り手振り、実にせわしない父親だ。静の宅部さんと正反対、真池さんや火星を超えるキャラの濃さだ。彼は「バハハーイ」と言って、自室に戻って行った。

 

「どんな仕事やってるんですか?」

 

 早速、津灯が宅部に質問してくれる。宅部さんはスマホを出すと、何か検索して、動画のサムネイルを見せてくれる。

 

「ユアムーバー」

 

 色んな動画のサムネイルを順繰りに見せてくれる。どうやら様々なゲームのプレイ動画をアップしているようだ。

 

「知ってる知ってる! バックルさんて、色んな裏技教えてくれるから好きやわ」
「そんな有名なのか?」
「ハリウッドスターぐらいフェイマス(有名)?」

 

 野球一筋の俺と天才科学者の東代にはピンとこない。

 

 彼の部屋に入ると、ゲームキャラのポスターやフィギュア、ゲームソフトが所狭しに並べられている。教室のスライド以上に画面が広いテレビの電源を付ければ、四方八方から音が聞こえる。

 

「ワーオ! サブカルチャールーム!」

 

 東代はゲームのソフトを取って、モノクルをいじりながらしげしげと見つめる。

 

「あー。この子、あたしのお気に入り」

 

 津灯はスマホを出して、お気に入りのウサギキャラの写真を撮る。

 

「すげぇなぁ。これ全部、自分で買ったのか?」
「ぶっちゃけ言うと、動画で父さんがクリアしたゲーム、半分以上俺がやってて、収入の3割ぐらいもらっとる」

「ワーオ! リッチですねー」

「ゲームで負けたら野球部入部って話やったけど、津灯さんが俺が元ピッチャーってこと知ってたから、自分のことちゃんと分かってるかもと思って、入ってみてね。すぐ入らなかったんは、体を野球やってた頃に戻すために、ここ数日みっちりトレーニングしててね。まぁ、普段から長時間ゲームするために体力づくりしとるから、トレーニング自体は苦じゃないけど、まだ全盛期の7割ぐらいかな」

 

 彼はお笑い芸人の司会者のように話を連ねる。ツッコミを入れるスキも与えないマシンガントークだ。

 

「ストラックアウトの時は全盛期の何割ぐらいだったんだ?」
「「ストラックアウト?」」

 

 あっ、誰にも言わないつもりだったのに、自分でバラしちまった。

 

「5割ぐらい? あっ、あの時はエース(仮)なんて言ってゴメンね。自分、他人とは友好的な関係結べるタイプやけど、ピッチャーを見ると、どうしても敵視しちゃってね」

「いや、別にいいですよ。同じ部活にライバルがいるのはいいことですから」
「エース(仮)? ウフフ」

 

 津灯はエース(仮)がツボにハマったようで、ずっと笑い続けている。

 

「おっ、そうだ。体感型ゲームのゲット・ザ・エンペラーやってみない? 中世ヨーロッパが舞台のゲームで、このリモコンスティック使って、ゲーム用の服着てプレイするんだけど」

「うん! 是非ともやりたい!」

「じゃ、この赤い服着てくれ。姉ちゃんが昔使ってたやつやけど、まだまだ感度ええから」

 

 赤いインナーのあちこちに黒いビー玉に似たものがついており、ボトムスのすそから出たケーブルがゲーム機につながっている。

 

「対戦モードで、剣闘士をエンターっと。今からキャプテンは女剣士マガリ―な。相手の攻撃を食らうとHP減るから、上手いことよけて、このスティックふるって相手の体にクリティカルヒットさせてや」

 

 TV画面には、女子プロレスでバリバリ現役っぽい女性の剣士が映し出される。胸当て以外が露出してかなりセクシーだ。

 

「OK。それじゃ、お願いしまーす」

 

 マガリ―の相手は番馬さん風の大男だ。マガリ―(津灯)は大男のすねに攻撃するが、相手の地ならしや蹴りをまともに食らってしまう。ダメージが体に伝わり、彼女はひざをついてしまう。
 

 彼女の前に、LOOSERの青文字が表示された。彼女は床に拳を叩きつけて「悔しい」と叫ぶ。やはり、ゲームは苦手なようだ。

 

「このゲームはやりこめばやりこむほど、強くなれるからねぇ。おかげで、ゲームだこが出来てもうて」

 

 彼が右手を広げると、親指に納豆の豆ぐらいのタコが出来ている。このゲームだこが、カーブの不規則な変化を生んだのか。

 

「ステイホームで、ボディが強くなりますか。私もトライしたいですね」
「東代君はゲッペラより、こっちのベースボール・フレンズをやろう。日本の野球の勉強になるから」

 

 ベースボール・フレンズ(べスフレ)は、プロ野球チームの選手を操作したり、オリジナル選手を作れたりするゲームだ。

 

「ミスター・ミズミヤ、バトルしましょう」
「えー。ちょっと待って。母さんに言っとかないと」

 

 母さんに連絡したところ、晩ご飯にラップをしてくれるとのことだった。ありがたい。

 

「野球部のエース(仮)と正捕手の勝負! これは見逃せません!」
「津灯! そのあだ名やめてくれ!」
「フェイクエースはどうでしょうか?」
「それもダメ!!」

 

 俺と津灯と東代のやり取りを見て、宅部さんはゲラゲラ笑っている。悪い人ではないんだけど、ちょっとヤバイ人かもしれない。まぁ、烏天狗や宇宙人に比べたらマシか?

 

 その後、俺と東代は、実況・宅部と解説・津灯のしゃべりを聞きながら、白熱した試合を展開する。最終的に、俺が延長15回の18対17で東代に勝った。
(初の練習試合まであと4日)

 

次の回↓

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