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ゲームセットは聞こえない~超能力野球奇譚~ 1回裏 野球アンチと宇宙人とゲーマー 9球目 練習試合の相手がいない

前回のお話し↓

ゲームセットは聞こえない~超能力野球奇譚~ 1回裏 野球アンチと宇宙人とゲーマー 8球目 柳生理事長の娘は慌てない - タカショーの雑多な部屋

 

<前回までのあらすじ>

 浜甲学園の野球部が復活したものの、有望な生徒たちが野球部に引き抜かれたため、校長・教頭は頭を悩ましていた。その野球部をつぶすため、理事長の娘である柳生(やぎゅう)先生が自ら野球部の監督に就任した!

 

<主な登場人物>

水宮塁(みずみや・るい) 1年。中学野球では神奈川県有数の好投手だった。

津灯麻里(つとう・まり) 1年。スポーツ万能の少女。遊撃手(ショート)を守る。

千井田純子(ちいだ・じゅんこ) 2年。チーターに変身する俊足の少女。

東代郁人(とうだい・いくと) 1年。IQ156の天才。アメリカでは捕手(キャッチャー)を守っていた。

山科時久(やましな・ときひさ) 3年。バスケ部のスター選手で、中学時代は強肩強打の中堅手(センター)だった。

番馬長兵衛(ばんば・ちょうべえ) 3年。元・改善組の番長。怒ると腕がムキムキの赤鬼と化す。ケンカは負け知らず。

デヴィッド真池(まいけ) 2年。ロックンローラー

取塚礼央(とりつか・れお) 2年。高校野球に未練のある幽霊に憑かれたかわいそうな人。

烏丸天飛(からすま・てんと) 1年。烏の口ばしがついた少年。妖怪退治のスペシャリスト。

本賀好子(ほんが・すうこ) 1年。津灯の親友。速読ができる。

柳生妃良理(やぎゅう・きらり) 理事長の娘で、家庭科教諭。野球部廃部を目論みながら、野球部の監督に就任した。

 

<本編>

 グル監こと柳生先生が紹介してくれたのは、ギョーザやチャーハンの混じった臭いがする町中華・陸だ。学校から歩いて30分の所にあるため、自転車で通学していない俺と津灯と山科さんは先生の車で送っていただいた。

 

 町中華・陸は甲子園球場の近くにあり、仕事帰りのサラリーマンや播鉄(ばんてつ)ライガーズの選手がよく利用するそうだ。

 

 店内は、落ち着いた木のイスやテーブル、騒がしい新聞記事や雑誌の切り抜きが合わさって、独特な雰囲気を作っている。俺たち以外の客はまだ来ていない。

 

「おう、先生。久しぶりヨ。元気にしてた?」

 

 少し片言の角ばった顔の店長が厨房から出てくる。

 

「久しぶりです、陸さん。本日は貸し切りにしていただき、ありがとうございます」

「気にすることないヨ! さぁ、どんどん注文してくれヨ!」

 

 バナナの貯金が無くなり、腹がすっからかんになった俺達は、次々と注文していく。ほとんどがギョーザかチャーハンを注文した。

 

「激辛担々麺もあるヨ」

「デヴィッドはそれにチャレンジするぜ!」

 

 真池さんがロック魂で、激辛担々麺を注文した。大丈夫かな……。

 

***

 

 10分後、中華料理がテーブルにずらっと並ぶ。番馬さんと千井田さんは変身して、ケダモノのごとくチャーハンにむさぼりつく。猫舌の本賀は焼き立ての餃子を離して、息を吹きかけていた。

 

「いただきまーす」

 

 まずチャーハンから味わう。焼き加減が絶妙で、水っぽくないパラパラ感が素晴らしい。ギョーザはカリッと固い皮だが、中身はトロットロの肉汁であふれていて、とても美味しかった。これはどんどん食べるわ。

 

「食べっぷりがいいヨー。野球部時代を思い出すヨ」

 

 大将は遠い目をして口元をゆるませている。

 

「陸さんは浜甲学園野球部のOBですよね?」

「そうヨ。いやぁ、野球部が復活して嬉しいヨ。きっと、柳生監督も喜んでいるヨ!」

「「柳生監督?」」

 

 俺と津灯が同時に尋ねる。

 

「えぇ。私の父、今の理事長は浜甲学園野球部の監督やったの」

「花咲と一緒によくしごかれてたヨ。あいつ、今や高校野球の名将になったもんヨー」

「花咲って、大阪ユニバース大付属や麗豪(れいごう)高校を甲子園に導いた花咲(はなさき)省三(ともみ)監督ですか?」

 

 津灯が目を丸くして早口で喋る。麗豪高校は、俺が小学生の時によく甲子園に出てたな。その関係者が身近にいるなんて、世の中狭いぜ。

 

「そうヨ。今は千葉の夢国学苑ってトコで、監督やっとるヨ」

「ちょっと、トイレ行きます……」

 

 真池さんが青ざめた顔でトイレへ向かう。地獄の釜のような真っ赤な激辛担々麺なんか食べるから、腹を壊したのだろう。

 

「ユメクニハイスクールとゲームしたいですね」

 

東代が天津飯の湯気で曇った眼鏡を拭きながら言う。店長は鉢巻を締めなおした。

 

「じゃあ、俺が頼んでみるヨ」

 

 大将が銀歯を見せてニカっと笑う。グル監は目をキョロキョロと動かして動揺している。

 

「ええ? そんなご迷惑では……」

「いいってことよ。花咲とは仲良しだし、柳生監督の娘が率いてる言ったら、OKしてくれるヨ。早速、電話」

 

 大将が手をハンカチで拭いてから、スマホで電話をかける。

 

「おう、花咲ぃ。試合の申し込みヨ。うん。ありがとう。おうおう。来週の日曜? ありがとう。今度、タダでおごるヨ。じゃ、バーイ!」

 

 大将は満面の笑みを浮かべて親指を立てる。

 

「OKヨ。来週の日曜、先生の学校のグラウンドで、試合やってくれるヨ」

「やったぁ! ありがとう、大将!」

 

 津灯が飛び上がって喜ぶ。皆もつられて、抱き合ったり、ガッツポーズしたりと、狂喜乱舞だ。真池さんだけお腹を壊してトイレに行っているのが気の毒だが……。

 

 俺が柳生先生に目を向けると、意外に涼しい表情をしていた。彼女は俺の視線に気づくと、すぐに目をそらして大将に何度も頭を下げてお礼の言葉を連ねる。

 

 グル監は、初めからここで練習試合を組む気でいたんじゃないだろうか? 出来たばかりの野球部と試合してくれる高校は皆無だ。だからこそ、コネを使って練習試合をセッティングしたのかもしれない。

 

 津灯とは違うベクトルで、この人も中々のやり手なのかも。どんな采配をふるうか、実に楽しみだ。俺も目一杯投げて活躍するぞ!

(初の練習試合まであと9日)

 

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