タカショーの雑多な部屋

たかすぎしょうの趣味に生きる部屋

ゲームセットは聞こえない~超能力野球奇譚~ 1回表 浜甲野球部復活!? 5球目 君はロックを聴かない

前回のお話し↓

ゲームセットは聞こえない~超能力野球奇譚~ 1回表 浜甲野球部復活!? 4球目 鬼のパンツが破けない - タカショーの雑多な部屋

 

<前回までのあらすじ>

 津灯麻里(つとう・まり)は浜甲学園野球部を復活させるため、好投手だった水宮塁(みずみや・るい)を勧誘する。しかし、彼は2日で8人集めないと入部しないと言う。津灯はチーター娘・千井田純子(ちいだ・じゅんこ)に100m走、IQ156の天才・東代郁人(とうだい・いくと)にチェス、バスケットボールのスター選手・山科時久(やましな・ときひさ)にフリースロー対決で勝利、改善組の番馬長兵衛(ばんば・ちょうべえ)も説得し、4人を入部させた。これで、水宮入部まであと4人だ!

 

<本編>

 野球グラウンド(ゴミ捨て場)に着くと、山科さんとファンクラブの皆さんが草刈りをやっていた。

 

「君達、遅いやないかぁ! 先輩より早く来ないと」

 

 山科さんは鎌を持ち上げて怒る。

 

「悪いなぁ。俺様が津灯と遊んでて遅なったわ」

「ったく。えっ、番馬さん?」

 

 山科さんは番馬さんに気づくと、急に黙り込む。番馬さんは相手が泣くまでなぐるのをやめないらしいから、そりゃ怖いよな。

 

「先輩達、ありがとうございます。それじゃ、皆で草刈りしよ」

「OK。クリーンなグラウンドをオープンしましょう」

「それにしても、何でこんなに荒れてるのかな。キレイにしとけば、体育の授業で使えるのに」

「昔、このグラウンドで野球したらケガ人が続出したらしいから、縁起悪いってことで、使われんくなったらしいやん。取り壊すのに費用かかるから、荒れ放題になったやん」

 

 このグラウンド、何か空気がどんよりしてるんだよなぁ。何か憑いてるのだろうか……。

 

 さて、グラウンドの草刈りが夕方までかかることを期待したが、番馬さんの怪力、津灯の俊敏さ、東代の除草機の開発により、わずか2時間で片付いてしまった。

 

 時刻は3時半。他の部活はまだまだ活発な頃だ。

 

「ハァー、疲れたぁ。あたい、もう動けへん」

「子猫ちゃんは、ほとんどサボってたやろ。少しは番馬さんを見習いたまえ」

 

 山科さんは、三塁ベースを枕にする千井田さんとしゃべっている。番馬さんと同学年なのに、「さん」づけするあたり、やっぱり怖がっているな。

 

 当の番馬さんはバットを刀みたいに振り下ろして、「殺す、殺す」と連呼している。近寄ったらダメなやつだ。

 

「ミス・ツトー、少しパソコン研究会に行ってきます」

 

 東代が申し訳なさそうに頭を下げる。

 

「うん、行ってらっしゃーい。今は3時34分、そろそろ、あたし達も探しに行こか」

 

 津灯が腕時計を見てからすっくと立ち上がる。

 

「あたし達って、俺もか?」

「うん。だって、さっき、何でもやるって言ってたやんね?」

「ゲッ!」

 

 番馬さんにビンタを喰らいたくないと、必死で謝ったことが仇(あだ)になってしまった……。

 

「わかったよ、津灯。そんで、次はどこ探しに行くんだ? サッカー? 水泳?」

「うーんとね。やっぱ、狙い目は1人で活動している部活かな。野球部入ってワイワイやろと言ったら、食いついてくると思うから」

「そんな部活あるのか?」

「あるで。軽音楽部が1人だけやったはず」

 

 山科さんが左右の瞳を♭(フラット)と#(シャープ)に変えて教えてくれる。軽音楽部の名前が出ると、ファンクラブの女子達が顔を寄せ合って何か話し始める。皆が浮かない表情なので、この部員もクセが強いのだろうか。

 

「じゃあ、そこに行こか、水宮君」

 

 俺は「おう」と答えて、彼女と一緒に歩き始める。最初は嫌だった野球部員集めも、何かまんざらでもない気がしてきた。

 

***

 

 軽音楽部の部屋は、2年F組の教室だ。そこから、ハードロックな音楽が聴こえてくる。

 

「失礼しまーす」

 

 ドアを開けた俺達が見たのは、ヴィジュアル系シンガーだった。

 

 ハリネズミのごとく無数の尖ったオレンジ髪、中央に黒い五芒星がある赤いバンダナ、紫の眉毛とアイシャドウ、黒い口紅という、悪夢に出てきそうなヴィジュアルだ。背は俺や津灯よりはるかに低いが、威圧感があった。さらに、電子ギターを演奏しつつ、ドラムを足で踏みならし、時折ハーモニカを吹くという離れ技もやってのける。

 

 俺達は思わず握手してしまう。

 

「デヴィッド真池(まいけ)の軽音楽部へようこそ! 今日からオレと一緒に、ロックな毎日を送ろうぜ!」

「ごめんね。あたし達、あなたを野球部に誘いに来たの」

「野球部だって? またデヴィッドはロンリーデイズか……」

 

 彼はため息を吐いて、西部劇のようにギターをかき鳴らす。会話に英語を挟むのは東代と同じだが、歌うように発音するところが異なる。

 

「うー、やはり、デヴィッドのソウル・ミュージックにふれないと、ユーの気持ちは変わらないということか。今から聴かせてあげよう、なぜ軽音楽部がデヴィッド真池1人になったのかを。『Lonely Music Man』」

 

 誰も頼んでないのに、真池はギターを鳴らしながら歌い始める。その歌声は女性と聞き間違えるほど高かった。

 

 

Lonely Music Man

作詞・作曲・編曲:デヴィッド真池

 

期待を胸に 軽音楽部に入る

先輩の演奏(プレイ) 楽しくて心躍る

しかし気になるよ 歌声やギターのテク

オレが先輩に 手本を見せたなら

 

Uh Lonely Music Man

 

どれだけレベルアップ求めても

先輩はついてこれやしない

去っていく 音楽以外の道見つけて

教室は オレ1人だけ

 

I want a new member

I seek stimulation

I wander in loneliness

You don't know the number of my tears……

 

 

 彼は歌い終わると、首を斜めにかたむけ、俺達を手招きする。いや、今は音楽やる気はないから、丁重にお断りしたい。

 

 津灯は一切かまうことなく、真池に近づいて野球部の良さを話し始める。

 

「野球場は音楽で満たされていて、真池さんにピッタリやと思うよ」

「応援ソングのことかい? デヴィッドは演奏を聴きたいんじゃない、弾きたいんだ」

 

 真池は一向にうなずこうとしない。彼はドラムセットに座って、一心不乱にドラムを叩き始める。

 

「抜群のリズム感、激しく演奏してもバテない体力、是非とも野球部に入ってほしいのに」

 

 津灯が歯がゆい顔を見せる。野球部入部を賭けた音楽勝負をやるしかないだろう。

 

 真池はドラムに飽きたのか、キーボードで「Lonely Music Man」を弾き始める。ギター、ドラム、キーボード、どれを演奏してもプロ級である。

 

「すげぇなぁ。これ録画して、ユアムーブにUPしたら、物凄く再生されるかも」

 

 俺のつぶやきを聞いた真池は、ピタッと演奏を止める。

 

「たくさんUPしてるが、ベストは5000さ……」

「へぇー、結構やるじゃん」

「ノン! まだまだまだまだ足りない! デヴィッドはワールドクラスのロックスターになるんだ。そのためにゃ、もっと再生数伸ばさんと」

 

 彼はヘドバンしながらベースを弾き始める。地獄の業火に焼かれる人みたいな声を出し続ける。それはもうロックじゃなくてヘヴィメタでは?

 

「たくさんの人に真池君のロックスターぶりを知ってもらえる方法があるよ」

「ほう。それはどんな方法だい?」

「野球部に入って活躍して、全国大会に出るの。そしたら、5万人の観客、1000万の視聴者にアピール出来るよ」

 

 夏の甲子園球場は常に満員だし、TVの視聴率も10%近くある。ユアムーブでちまちま動画をUPするより、効率はいいと思う。しかし、寄せ集めの野球部で全国大会出場できるほど、高校野球は甘くない。

 

 それを知らない真池は、食虫花に吸い寄せられる虫のように、話の花に乗ってしまった。

 

「グッドじゃないか、高校野球! よっしゃ、野球場をデヴィッド真池のソロコンサート場に変えてやるぜ!」

「うん! 真池君なら出来るよ!」

 

 真池はベースを弾きながら、口笛を吹いて上機嫌でクルクル回る。津灯は手拍子を取って笑っている。

 

 もしかして、俺が動画サイトにふれなかったら、入部してなかった? 俺は自分の頭を小突いて反省した。

 

***

 

 野球グラウンドに戻れば、山科さんがピッチャーのボールを打ち込んでいる。ピッチャーは誰かと目をこらせば、チェーンやネジがむき出しの人型ロボットが、カクカクした動きでボールを投げていた。

 

「なっ、何じゃありゃあ!」

「オー。ミス・ツトーとミスター・ミズミヤ、お帰りなさい。このロボットは、私とパソコン研究会とロボットクラブが共同開発した“ピッチャー太郎01”です。50マイルから100マイルまでのストレートを投げられます」

 

 東代がにこやかな顔でさらっと言う。人型のピッチングマシンを作るという偉業をなしとげたというのに、こいつは……。

 

「変化球は投げられへんの? カッターとかスプリットとか?」

 

 スライダー(横に変化)やフォーク(下に落ちる)と言わないあたり、津灯もアメリカンに通じている。

 

「ソーリー! ワンナイトでは、そこまでプログラミングが出来ませんでした。変化球はカミングスーンということで」

「いやいやいや! 昨日・今日で、こんなロボ作れる時点で凄いから、謝ることないって」

 

 東代は肩をすくめて首をゆっくり横に振って、電車をあと一歩で逃したかのようなため息を吐く。

 

「ミスター・ミズミヤ。このロボットは、私がアメリカで研究していたヒューマン・ロボットをアレンジしただけなのです。あらゆるモーションのプログラムをデリート(消去)し、投げるモーションにスペシャライズド(特化)したモノです」

 

 東代は人間のように動くロボットを作りたかったということか。彼には不本意な成果でも、俺達にとっては大発明に思えるから、もっと誇ってもいいのにな。

 

「これでピッチングマシン買う手間がはぶけたね。あとは3人見つけて、出来たらピッチャー経験ある子ほしいね」

「そんな奴は浜甲にいないって」

「ピッチャーはここにおるで!」

 

 グラウンドに柔道着の男が入ってきて叫ぶ。向こうから入部してくるなんて、計算外だぜ。

(水宮入部まであと3人)

 

次の話↓

ゲームセットは聞こえない~超能力野球奇譚~ 1回表 浜甲野球部復活!? 6球目 日本の幽霊は足がない - タカショーの雑多な部屋