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ゲームセットは聞こえない~超能力野球奇譚~ 1回表 浜甲野球部復活!? 2球目 IQ156は半端じゃない

前回のお話し↓

ゲームセットは聞こえない~超能力野球奇譚~ 1回表 浜甲野球部復活!? 1球目 チーターは持久力がない - タカショーの雑多な部屋

 

<前回までのあらすじ>

 津灯麻里(つとう・まり)は浜甲学園野球部を復活させるため、好投手だった水宮塁(みずみや・るい)を勧誘する。しかし、彼は2日で8人集めないと入部しないと言う。津灯はチーター娘・千井田純子(ちいだ・じゅんこ)との100m走に勝ち、彼女を入部させる。これで、水宮入部まであと7人だ!

 

<本編>

 俺の前をチーター獣人と野球少女が歩いている。さっきの100メートル走対決の熱気と違い、学校の廊下は寝ているように静まり返っている。

 

「ホンマのチーターはおとなしいのが多いんやって。うちの母さん、ばあちゃんもそうなんやん。高校でキャラ作りしよ思うて、ヤンキーっぽくしてたやん」

「へぇー、そうなんですか。めっちゃ勉強なりますね」

 

 千井田さんは去勢されたネコみたいにおとなしくなった。そのせいか、ちょっとだけ可愛さが上がっている。とは言え、津灯には勝てない。野球が絡んでなかったら、絶対に俺が好きなキュート属性の若手女優顔なのに……。

 

「おっ、着いた。ここに浜甲で一番賢い生徒がおるよ」

 

 彼女が指さしたのはコンピュータ室だ。パソコン関係の部活なら、頭が良い人に期待できる。

 

「何で頭ええ人を勧誘しに来たん?」

「野球では、キャッチャー(捕手)と言って、チームの守備陣形を変えたり、ピッチャーの投げる球を指示したりするポジションがあるんです。そういう所は、賢い子が守らんとね、水宮君?」

 

 彼女が流れ星のウインクをしてくる。俺は「まぁな」とテキトーな返事をしておく。キャッチャーに関しては、覚えることが多いので、経験者が望ましいと思うがな。

 

「それじゃ、失礼しまーす」

 

 俺達がドアを開けても、部員の誰も反応しない。彼らはパソコンに複雑怪奇な文字を打ち込んでいる。これがプログラミングってやつか?

 

「東代(とうだい)様、ここの動作が重いんですけど……」

 

 丸メガネの男が手を挙げて言う。

 

「オー、十段目のコード指定がミスってますね。正しいコードをインプットします」

 

 東代と呼ばれた男が数回キーボードを叩けば、丸メガネ君の顔が晴れ上がる。丸メガネ君は「ありがとうございます」と、仏様を拝むように、手をすり合わせて感謝していた。

 

「あなたが東代君ね」

「イエス、マイネームです。何の御用ですか?」

 

 東代は灰色のほうき髪と左の片眼鏡(モノクル)で、科学者風の見た目だ。ネイティブっぽい英語の発音が、少し耳ざわりだな。

 

「ベースボールを一緒にプレイしない?」

 

 東代はモノクルを何度も上下に動かして考え込む。

 

「ウェル、私はアメリカンライフに飽きて、ジャパンにやって来ました。ジャパンの作品に出てくる“アオハル”を体感するためです。このパソコン研究会はインタレスティング(面白い)と思いますが、コーコーヤキューはそれ以上なのですか?」

「ベリィベリィインタレスティングよ。口で言ってもわからないと思うから、一緒にボールパークに来てくれる?」

 

 津灯もまぁまぁ英語の発音いいよな。千井田さんは口を〇の形にして、IQの高い(?)会話を聞き入っている。

 

「ソーリィ。あなたが私をエンジョイさせてもらえるか、1つテストしてもらってもいいでしょうか?」

「OKよ。何をすればいい?」

「チェスで私を任したら、ボールパークへ行きましょう」

「ええね。やろう」

 

 かくして、津灯と東代のチェス対決が決まった。

 

「グッド。皆さん、待っててください」

 

 東代が席を立つと、他の部員全員が起立して手を振り始める。

 

「東代様、お疲れ様です!」

 

 部員に「様」づけで呼ばれるとは、かなりの大物だ。さぞかし凄い実績を積まれたのだろう。

 

***

 

 コンピュータ準備室の中で、チェス対決し始めた。俺と千井田さんはチェスのルールを全くい知らないので、何か駒が動いてるなぐらいしか分からない。

 

「馬の駒、美味しそうやん」

「ハハ……」

 

 おとなしいと言えど、やはりチーターは肉食獣だ。チーター顔の千井田さんはよだれを体操着の袖で拭いて、2人の勝負を見入った。

 

「東代君はカレッジ時代にベースボールをプレイしてたよね?」

 

 不意に津灯が質問する。

 

「イエス! 州大会でプレイしてました」

「ちょっと待てやん。カレッジってことは、東代君て大学出てるん?」

 

 千井田さんがアメリカのアニメキャラのような驚きチーター顔で尋ねる。

 

「イエス。サンバード大学を首席でグラッデュエイト(卒業)しました、スリーイヤーズ前に」

「マジか。15歳で大学卒業?」

 

 東代は首を激しく横に振る。

 

「ノー、トゥウェルブです」

「トゥウェルブは12だから、今は15歳やん! スゴッ! むっちゃ天才やん!」

 

 千井田さんは尻尾をビュンビュン振って、東代に興味津々だ。俺は若干引き気味だ。なんか、こういう天才オーラ出してる人は苦手だ。

 

「東代君はIQ156で、先月に日本が発射した木星探査機の製造にも関わっとるもんね」

「オーウ。シークレットにしてたことも知られてましたか」

「野球部復活させるために、ちゃんと調べてるもの。はい、チェックメイト

 

 喋りながら、着実に東代の駒を追い詰めていたようだ。東代は頭をかきむしって打開策を考えていたが、ガックリと頭を下げる。

 

「ユーウィン(あなたの勝ち)……」

「すっごい、津灯ちゃん!」

「えぇ、マジか……」

 

 ズルをしてたとは言えチーター娘に匹敵する俊足だし、チェスでIQ156に勝つし、この子は思ってたより恐ろしい。

 

「これで、野球部入りね!」

「ソーリィ。ボールパークには行きますが、まだコーコーヤキューするとは言ってませんよ。私にはバッドな思い出があるので……」

 

 東代はアメリカ時代の思い出を語り始めた。

 

***

 

(セリフは日本語ですが、実際は英語で喋っています)

 

 東代はアメリカのサンバ―ド大学で工学研究を続けるかたわら、野球部に所属していた。10歳ぐらい離れた人と対等に渡り合えるほど、野球知識が豊富で、キャッチャーとしてチームを引っ張ってきた。大学卒業後も特例で公式大会に出場していた。

 

 去年の夏、州大会出場をかけた試合で、大ピンチを迎える。1点リードで迎えた9回裏、2死2・3塁の場面。東代はピッチャーのグレンゲルのストレートの球威が落ちているのを感じ、スプリット(フォークより浅く握り、速く落ちる)を要求した。しかし、グレンゲルは首を横に振り、ストレートになった。

 

 グレンゲルのストレートは高めに浮いてはじき返され、センターの頭上を越えるサヨナラヒットになってしまった……。

 

 試合後、ロッカールームで、東代がグレンゲルを問いただす。

 

「グレンゲルさん。あんたのストレートの球威は7回辺りから落ちていました。あの場面はスプリットを多投し、カウントを有利にしてから、ボールゾーンのストレートで三振に取ろうと思っていたんですよ。何故、あなたはストレートにしたんですか?」

「俺様のストレートなら、あのヘボを抑えられると思ったんだ。暴投(キャッチャーが捕れないほど、大きく外れた投球)のリスクがあるスプリットより、ストレートの方がいいだろ!」

「私のキャッチングを信用してなかったなんですか?」

「ああ、信用できっかよ! てめぇみたいな魚臭いジャップのキャッチャーは特によぉ!」

 

 ロッカールームの空気が凍り付いた。東代は冷静な表情のまま、グレンゲルに言い聞かす。

 

「あなたが差別主義者と分かり、誠に残念です。もっと柔軟な思考のできる方と思っていたのに……。これでは、あなたと一緒にベースボールを楽しむことは出来ませんね……」

「あんだとぉ!」

 

 グレンゲルは東代につかみかかり、他のチームメイトがそれを止めようとする。ロッカールームは大乱闘になった。

 

 その後、グレンゲルはサンバード大学の理事長である父に、東代のあることないことを吹き込んだ。それが、グレンゲル理事長の怒りにふれ、東代はサンバード大学院の除籍と研究支援を打ち切られてしまった。

 

***

 

「ええ……。そんなことが……」

「まぁ、私の態度がディスライクだったんでしょうね。ここ日本なら、そういうことはないと信じてハイスクールライフを始めてみました。ここハマコーはロボット研究がトップクラスですからね」

「どうしたら、野球部に入ってもらえるん?」

「ウェル、私をエキサイティングさせるピッチャーがいれば入りたいですね」

 

 津灯が俺の顔をじっと見てきた。俺は絶対に投げたくないので、首を横に振る。

 

「じゃあ、あたしが投げるから、それで興奮したら入ってくれる?」

オフコース! 約束は絶対に守ります」

 

 津灯が東代に対して投げることになった。俺達は浜甲学園の野球場へ向かう。

 

***

 

 浜甲学園の野球場は全く手入れがされておらず、雑草が伸び放題、壊れた道具や機械などが捨てられていた。ただ、ピッチャーマウンドからバッターボックスの間だけ草が生えていない。

 

「ここだけ草を刈り取ったの。水宮君が投げやすいように」

「どうも、おおきに」

 

 俺はわざとらしい関西弁で感謝を伝える。津灯はベンチから野球用具を引っ張り出して、表面がデコボコの金属バットを取り出す。

 

「はい、これ持って」

「お、おう……」

 

 金属バットに赤い塗料が付いているが、これ人間の血じゃないよな……? 俺は左のバッターボックスに入った。

 東代がキャッチャーマスクを付け、津灯がマウンドに上がる。千井田さんは草むらで、スフィンクスみたいなポーズで俺達を見ている。未だにチーター姿だから、サバンナのしげみに隠れて、獲物を見定めている肉食獣に見えてしまう。

 

「千井田さん、ボールをゴロ、こっちに転がしてくださーい」

 

 彼女は三塁付近にいる千井田さんにボールを投げる。千井田さんはボールを口でキャッチしたため、体操着でボールを拭いた。

 

「キャッチャーからじゃなくて、サード(三塁手)からの送球でいいのか?」

「うん。ショートゴロをファーストへ送球するイメージで投げるから」

 

 彼女の本職がショートと判明した。女性は肩が強い印象はないが、彼女はどうなんだろう。

 

「お待たせやん。いくでー」

 

 千井田さんがボーリング投げで、ボールを転がす。津灯は腰を落としてボールをグローブに収めてから、上体を起こして、空気を切るようサイド(横)から素早く投げる。

 

「うわっ!」

「ホワット!?」

 

 予想以上のスピードボールが来たので、思わず叫んでしまった。東代も目を丸くしている。

 

「ホワイ? 男性並みのスピードがありました。ミステリアスです!」

「あたしピッチャーやったことないから、スピードガンで計ってもうたことないんやけど、85マイルぐらい出とった?」

 

 彼女の送球は150キロぐらい出てたかもしれない。東代はキャッチャーミットを取って、拍手し始める。

 

「エクセレント! とてもフェイバリット(お気に入り)ですね、ここのベースボール」

「じゃあ、野球部に入ってくれる?」

 

 東代は「オフコース!」と、親指を立てて答える。千井田さんは拍手、津灯はマウンド上でバンザイしている。

 

 俺は気分がベリーバッドなので、野球場のフェンスを遠い目で見ている。一組の男女と視線が合う。カップルは俺に気づくと、そそくさと校舎へ走って行った。

 

 あー、俺も野球じゃなくって、あいつらみてぇな“アオハル”してぇー。

(水宮入部まであと6人)

 

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