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十二士島(じゅうにしじま)連続獣化事件〜零〜(※AIイラスト注意)

 富・名声・愛すべてを手に入れた男・十三(じゅうそう)閏支郎(じゅんしろう)が事故死したニュースは、世界中に大きな衝撃をもたらした。
 あらゆる事業に成功した彼の遺産は100億円にのぼると言われる。妻子のいない彼の遺産を、誰が手に入れるか注目された。
 彼の死から1ヶ月後、遺言状が公開された。

 

 

 私の遺産の相続権は、以下の12名の子ども達にのみ与える。

壱場 睦樹(いちば・むつき)
弐志 如華(にし・じょか)
参東 生弥(さんとう・せいや)
肆乃田 優卯美(しのだ・ゆうみ)
伍島 皐井斗(ごしま・さいと)
陸 水麗(りく・すいれい)
漆原 文吾(うるしばら・ぶんご)
捌条 葉太(はちじょう・ようた)
玖古 長江(きゅうこ・ながえ)
拾央 神助(じゅうおう・しんすけ)
霜奈・エールフ(そうな)
走師郎・ディッセム(そうしろう)

 

 私の遺産は、以上の12名で均等に分配するが、それには条件がある。
 9月24日から30日の1週間、私の別荘がある十二士島(じゅうにしじま)に滞在し、最終日まで残った人間のみが、私の遺産を相続できるものとする。
 なお、島に来るのは子ども達だけであり、それ以外の人間を連れて来た者は相続権を放棄したものと見なす。当然ながら、9月30日までに離島した者も、相続権の放棄と見なす。
 9月30日に相続権を持つ人間が島に1人もいなかった場合は、私の遺産の全額を赤十字募金にあてるものとする。

 

 

 彼は生前、数多の女性と付き合っていたが、正式な結婚はせず、多くの婚外子が産まれた。これは、彼の子ども達に対するせめてもの償いだろうか。

 

***

 

 さびれた漁港で、壱場睦樹は目を細くして、船を探していた。十二士島へ行く船には、黄色い龍のマークがしらっていると聞いたが、一体どこにあるのか。彼は打ち捨てられたような船を、一隻一隻確かめている。

 

「おーい、壱場先生! こっち、こっちぃ!」

 

 彼を呼んだのは、坊主頭のくりっとした瞳の少年である。彼は野球部のユニフォームを着ている。壱場は不機嫌そうな顔を浮かべて、彼に歩み寄る。

 

「おい。その先生呼びはやめろと言っただろう?」
「悪い悪い。でも、先生には違いないっしょ?」

 

 壱場睦樹(いちば・むつき)は、わずか13歳で鷹杉文学新人賞と芥川賞をダブル受賞し神童作家と呼ばれた。しかし、その後の作品は今一つで、処女作の盗作疑惑が浮上するほどだ。最近は推理小説を書いているが、その評価は芳しくない。

 

「僕は大した小説家じゃないよ。睦樹でいいよ、参東君」
「りょ! じゃ、俺のことも生弥と呼んでよ」

 

 ノリの良い少年は参東生弥(さんとう・せいや)と言い、明智第三高校の1年生エースである。MAX154キロのストレートと落差のあるフォークを武器に、今年の夏の全国大会の優勝投手になった。本来なら総体に出場しているが、監督やチームメイトが特別に遺産の相続を優先させてくれた。

 

「わかった、わかった。じゃあ、これに乗ろうか?」
「おっしゃ! どんな兄弟に会えるかなぁ~」
「生弥みたいにうるさいのはゴメンだよ」
「何ぃ!?」

 

 2人はたまたま同じ電車で出会い、意気投合して仲良くなった。小説家と野球少年という文化系・体育会系の違いがあっても、同じ父親の遺伝子を継いでいるから、波長が合うのだろうか。

 

 彼らが船に乗り込むと、パソコンをいじるマスクをつけた少年、目をつぶって瞑想中の紫の長い髪の少女、料理本を読む三つ編みの少女がいた。3人は漁の道具の間に座り、パーソナルスペース分に離れている。

 

「あれ? あと7人足りないね」
「船は6人と5人で分けて、1人は別のルートで行くヨ」

 

 三つ編みの少女が、生弥の疑問を打ち消す。

 

「えっと、君は……」
「あら、ごめんヨ。うちは陸水麗(りく・すいれい)、よろしく」
「俺は参東生弥、生弥でいいよ」
「僕は壱場睦樹です。よろしくお願いします」

 

 3人が自己紹介をしていると、紫髪の少女が目を開けて、おもむろに立ち上がる。

 

「私は玖古長江(きゅうこ・ながえ)。皆様に幸運がありますように」

 

 彼女は腕に巻いた黒い数珠をジャラジャラ鳴らしながら、おじぎする。彼女のスピリチュアルな雰囲気に、睦樹と生弥はドン引きする。

 

「えっと、君の名は?」

 

 マスクの少年はキーボードを叩いてから、パソコンの画面を皆に見せつける。ディスプレイに「漆原(うるしはら)文吾(ぶんご)です。よろしく」と表記されていた。

 

「文吾君はパソコンばっか見て、全く話してくれないヨ。長江ちゃんもあの調子で、会話が続かないし。まともな2人来て助かったヨ」
「そうなんだ。良かったねぇ……」
「こんなのと1週間、同じ島か……」

 

 同じ遺伝子を継いでいても、違った環境で育つとこうも違うのかと、睦樹は実感する。他の兄弟も変わり者が多いのか、少し不安になってきた。

 

「皆さん揃ったので、出しますよー!」

 

 船長が漁船を出航させる。波が高くないので、小さな揺れで済んでいる。睦樹達は座って話し始めた。

 

「俺は野球、睦樹は小説の才能あるけど、水麗ちゃんは何か才能、特技ある?」

 

 初対面の人に足して、かなり大胆な質問だ。ただ、十三閏史郎の子ども達は皆、何かしらの才能を持っているのは事実だ。

 

「うちは料理得意ヨ! 家でむっちり中華料理作ってるからヨ!」
「中華料理かぁ。ひょっとして、そのトランクの中には、マイ包丁が入ってるのかな?」
「その通りヨ。ほら」

 

 彼女がトランクを開くと、文化包丁や刺身包丁など、様々な用途の包丁が入っている。警察に見つかったら、逮捕されそうな量だ。

 

「ワーオ! 本格ぅ! 向こうで水麗ちゃんの料理食べたいなぁ」
「1週間、うちと弐志(にし)さんで作るの決まってるから、食べれるヨ」
「食材はすでに用意されてるのか?」
「あい。弐志さんが乗ってる船に、食料品あるヨ」
「その弐志さんという人とは、どういう関係だ?」

 

 睦樹は立て続けに質問する。推理小説を書いているせいか、少しでも気になることがあれば、質問したくなるようだ。

 

「うちの店の常連ヨ。高校で看護系の学んでるヨ」
「看護師さん志望かぁ。俺の肩も見てもらっちゃお!」
「看護師と料理人か。俺ら子ども達だけで、1週間暮らしていけるよう、上手いことなってるな」

 

 無人島でレトルト料理や不衛生な場所を覚悟していただけに、これは嬉しい誤算である。

 

「1週間いるだけで10億近い金ゲット出来るから、ちょっと不便でも良かったけどな」
「そうヨ。うちも金入ったら、お店拡大して世界進出ヨ!」
「おっ、夢あっていいねぇ。俺の金は野球部の練習機材や用具に使われそうだから、全く夢ないぜ。睦樹は何につかうつもり?」
「言わない」

 

 睦樹は口を真一文字に結び、意地でも言わない姿勢になった。

 

「えー、教えてくれてもいいじゃん」
「言わないったら、言わない」
「どんな夢でも笑わないヨ」
「陰知己(いんちき)教の教会の改築! ああ素晴らしい!」

 

 長江が夢見心地の眼で、急に喋り出した。やはり、彼女と関わるのは避けた方が良いと、3人は思った。文吾は無言で、パソコンに何らかのコードを打ち続ける。

 

***

 

 

※AIに生成させた十二士島の画像


 十二士島(じゅうにしじま)は港の近くに白い洋館が建っており、その後ろに小さな山があった。洋館の近くには松の木や神社があり、和洋折衷の奇妙な外観だ。

 

 5人は船長と別れて、島に上陸する。

 

甲子園球場3個分くらいありそう。広いなぁ」
「この建物も1億ぐらいかかってるんだろうね」
「にしても、何で十二士島なんヨ?」
「それについては、ボクがお答えします!」

 

 カンカン帽をかぶり、丸メガネ、金の腕時計をつけ、昭和初期の男性風の格好をした少年が、5人の前に現れた。

 

関ヶ原の戦いに敗れた西軍の武士12人が島流しにされたのが、この島なんです! 彼らはいつか故郷に帰れるように、漁や農業で生き続けました」

 

 少年は塾の講師のように早口でハキハキと喋り続ける。

 

「その武士たちは故郷に帰れたのか?」
「残念ながら、この島で亡くなりました。近くの島民は彼らの怨霊を恐れて神社を建立し、十二士島と名付けたのです」
「まぁ、かわいそう……」
「後でお祈りしてあげて下さいね」
「とても詳しいねぇ、君。小学生だろう?」
「おっと、自己紹介が遅れました。ボクは拾央神助(じゅうおう・しんすけ)、小学3年生です。他の兄弟たちが、あの屋敷でお待ちですよ」

 

 5人は神助に手招きされて洋館へ向かう。洋館には6人の子どもがいるはずだ。

 

***

 

 洋館に入ると、シンデレラ城のダンスホールのように広い空間が広がっている。その真ん中に十二角形の机があり、5人の子どもが座っている。

 

 睦樹ら5人の後発組が自己紹介した後、先発組が自己紹介をし始めた。

 

「はじめまして、弐志如華(にし・じょか)です。看護師を目指してる高校2年生です」

 

 如華は茶髪のセミロングのぽっちゃりした女性で、、穏やかな雰囲気の女性だ。

 

「肆乃田 優卯美(しのだ・ゆうみ)。サーティー理化学研究所勤務」

 

 優卯美は研究者らしく白衣を着ており、黒い短髪と鋭い目つきの女性だ。他の子は立っているのに、彼女だけ気だるそうに座ったままだ。睦樹は瞬時に、彼女を怖い人と認識した。

 

「伍島皐井斗(ごしま・さいと)ですぅ。絵を描いてますぅ。あっ、中学2年生ですぅ」

 

 皐井斗はかなり痩せた糸目の男性で、服が絵の具で汚れている。彼の机上にはスケッチブックのラフ画が広がっている。

 

「捌条葉太(はちじょう・ようた)ッス。数学が好きな小5ッス」

 

 葉太は焦げ茶のボサボサ髪の元気そうな少年で、兄弟の中では1番まともに見える。

 

「霜奈(そうな)・エールフ。よろしくデス」

 

 霜奈はカールした金髪で鳶(とび)色の瞳を持つ西洋の美少女だ。彼女はドイツと日本のハーフである。

 

「霜奈ちゃんはこの前、パクモンの主題歌歌った凄い子なのよねぇ」
「ちょっ、ちょっとはずいデス……」

 

 如華に補足された霜奈は頬を染めて、うつむき出す。

 

「ええ!? あの綺麗な歌声の子、ヤッバ! サインしてぇ」

 

 生弥は目を丸くして彼女に近づき、ユニフォームの袖にサインを書かせようとする。

 

「そう言う生弥も夏の甲子園優勝投手だろう?」
「最年少の芥川賞作家の方が凄いって」
「いいや! オレの方がスゴいッス! 何と言っても、ピー・カルーの定理(実在しません)の新しい証明方法を見つけたッスから」
「おお! 教科書に載ってたあの!?」

 

 自慢合戦になってきたので、水麗は大きく手を叩いて、皆を黙らせる。

 

「まだ1人いないヨ!」
「ああ。彼は別ルートで来るみたいね」
「別ルート?」

 

 バラバラバラバラバラバラバラバラバラバラ

 

 その時、ヘリコプターが接近する轟音が聞こえて、屋敷が揺れた。

 

「何だ、この音!?」
「彼がやって来たのかも」

 

 如華が外へ出ると、他の皆も後へ続く。洋館の屋上を見れば、ヘリコプターがヘリポートの×印に降りようとしている。

 

「ハロー、エブリワン!」

 

 黒いシルクハットをかぶり、燕尾服を身にまとった七三分けの茶髪の少年が、ヘリコプターから降りてくる。11人の子ども達は洋館の屋上へ続く外側の階段を使って、彼に会いに行く。

 

「ミスター・タナカ、ここまででいいよ」
「グッドラック、坊ちゃま!」

 

 執事服を着たパイロットが扉を閉め、そのまま空へ上がっていく。少年は名ごり惜しそうに、ヘリコプターが小さくなるまで見送っていた。

 

「君が十三氏の子どもかい?」

「イエス! アイム走師郎・ディッセム。ソーシローと呼んでね」

 

 彼は見た目通りに英語が堪能であった。

 

「ディッセムって、もしかしてディッセムランドと関係あるヨ?」
「イエス! ディッセムランドのCEOは、ミーのグランパ(祖父)ね!」
「マジモンの大金持ちじゃねぇか」

 

 わざわざ遺産を手に入れにやって来る必要はないと思うが、ソーシローは目を伏せて、か細い声で言う。

 

「バット、ミーのマンスリーは500ドルね……」
「10万円! 結構あるッスよぉ」

 

 葉太は瞬時に日本円に換算した。多くの子ども達は月に1万円もらえるかどうかなので、彼に羨望の眼差しを向ける。

 

「ビコーズ、ビッグマネーゲットして、ミーだけのテーマパーク作るね!」
「わぁ楽しそう」
「10億ぐらいあったら、日本の遊園地程度の施設は出来るか?」
「正確には遺産は112億で、1人あたり9億3000万円ッス。大型のジェットコースター建てるだけでも10億以上かかるから、テーマパークは無理ッスね」
「オーノー……」

 

 ソーシローはうなだれてしまう。睦樹は葉太に対して注意する。

 

「おい! 小っちゃい子の夢を奪うようなこと言うなよ」
「幼い頃から厳しい現実を知るのも大事ッスよ、元・売れっ子の小説家さん」
「グッ!」

 

 睦樹は葉太の物言いに腹を立てて拳を振り上げたが、生弥が慌てて止める。如華は険悪な雰囲気を振り払おうと、笑顔で喋り始める。

 

「み、皆さん! そろそろお腹が減りましたよね? 下に戻って、ご飯を食べませんか?」

「うん。腹が減ってはいくさが出来ないもんね」

「食べたいデス!」
「じゃ、今から作るヨ!」

 

 睦樹と葉太は睨み合っていたが、フンと言って互いに目を逸らす。ひとまず兄弟ゲンカは避けられた。

 

***

 

 如華と水麗が作ったのは、サンドウィッチとオムライスだった。みずみずしいサンドウィッチと甘くてとろっとしたオムライスに、皆の目がくぎ付けになる。

 

「さぁ、召し上がれ」

「いただきまーす!」
「アウワファーザー・イン・ヘヴン……」

 

 ソーシローは手を重ねて、食前の祈りを始める。

 

「あれ? 霜奈ちゃんは祈らないの?」

 

 神助が隣の霜奈に尋ねる。彼女は首を横に振る。

 

「私の家、ブッディズム(仏教)デス」

「おおう、意外だねぇ」
「おー! このサンドウィッチ、うんま!」

 

 生弥はサンドウィッチをむさぼるように食う。右隣の優卯美は怪訝な表情で、左隣の如華は天使の微笑みで彼を見ている。

 

「良かったら、おかわりあるよ?」
「マジ? サイコー!」

 

 12人の子ども達のランチ。大人の目がないだけに、とても楽しく思えた。

 このまま幸せな時間が流れてほしいと、皆は思っていた。しかし――。

 

「うわあああああああああああ!」

 

 1人の子どもの悲鳴から、奇妙な連続獣化事件の幕が開けてしまった!
(続く)

 

※次回からR18になります。

 

続き↓

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