タカショーの雑多な部屋

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十二士島(じゅうにしじま)連続獣化事件〜壱〜(※R18指定)

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十二士島(じゅうにしじま)連続獣化事件〜零〜 - タカショーの雑多な部屋

 

 

<登場人物紹介>

壱場睦樹(いちば・むつき)

1月8日生まれ

高校3年生

176㎝ 51㎏

O型

 

※AIに生成させた壱場睦樹のイメージ画像

 

 幼少期から読書が好きで、10歳で小説を書き始める。13歳の時に出した『僕が君になる前に』が鷹杉文学新人賞と芥川賞を同時受賞し、200万部の大ヒットを記録。後に実写映画化され、本人も脇役で出演した。しかし、以降の作品は売り上げが伸びず、評論家からの評価も今一つで、デビュー作の盗作疑惑が浮上している。恋愛小説路線をやめ、最近はミステリー小説に挑戦している。

 どんなに忙しくても、1日1冊の本を読み切るルーティンを続け、ここ3年は継続できている。

 遺産の使いみちは、自身の小説を実写映画化して、主人公役で出演することである。

 

<前回までのあらすじ>

 事故死した十三(じゅうそう)閏支郎(じゅんしろう)の莫大な遺産を相続するため、彼の私生児である12人の子ども達が、十二士島(じゅうにしじま)に集まった。

 彼らは仲良く昼飯を食べていたが、突然、1人の子どもが悲鳴を上げる。

 

 

<本編>

「うわあああああああああああ!」

 

 突然、ソーシローが顔を両手で覆って、立ち上がった。彼の体は非常に熱くなっていて、叫ばずにいられなかった。

 

「ソーシロー、大丈夫デス?」

 

 霜奈(そうな)が尋ねても、彼は返事できない。彼の両手に茶色い毛が生えて、人肌の部分を減らしていく。耳が尖って、頭部へ移っていく。

 

「グググ、アアア……」

 

 彼の口が開いて、全ての歯が犬歯のように尖りだした。鼻が黒ずんで前へ伸び、人からかけ離れた顔つきへ変わる。燕尾服がだぼだぼになり、彼自身の体が縮んでいるようだ。

 

※AIに生成させた燕尾服を着た柴犬の少年のイメージ画像

 

「優卯美(ゆうみ)ちゃん! 何か薬ない?」

「きゅ、急に言われても……」

 

 周りの皆はどうすることも出来ず、ソーシローの異変を見るばかりだ。

 ついに、ソーシローは服の中に埋もれ、中でもぞもぞと動いている。ズボンがずり落ちて、茶色い丸まった尻尾が現れる。

 

「ウップス!」

 

 服に入ったままイスの上で回り出し、止まろうとしない。如華(じょか)は燕尾服やシャツを取っ払って、彼の視界をクリアにした。

 

「オーウ! みな、ジャイアント!」

 

 ソーシローの目には、皆が巨大化したように見えるが、実際は逆である。ソーシローは小さい柴犬に変わってしまったのだ!

 目の前で起きた不可解な現象に、皆は驚きのあまり固まってしまう。そんな中、優卯美が壁の方に置いていたトランクへ駆け寄り、何か取り出してきた。それは薬物の簡易検査キットだった。

 

 彼女は開けたソーシローの口にスポイドを刺して唾液を採取し、検査キットの中へ入れる。

 

「薬物反応があるか調べるのか?」

「ええ。薬物の過剰摂取の可能性があるから」

 

 睦樹(むつき)は推理小説を書いているため、やや化学の知識があった。数分待てば結果が出る。

 

「反応ナシ。薬物の混入は無い、と」

「料理に毒が盛られたんスかね」

「毒見してやる」

 

 生弥(せいや)が食べかけのサンドウィッチをひょいとつまんで、口の中へ入れる。

 

「ちょっと! 不用意に食べたら、あなたも変身するよ!」

「生弥の食い意地はどうしようもねぇな……」

 

 生弥は満面の笑みで口一杯にほおばっている。皐井斗(さいと)は犬になったソーシローをスケッチし、長江(ながえ)は一心不乱に謎のお経を唱え始める。

 

「うん。何ともないぜ!」

「サンドウィッチに毒はなかったか」

「ちゃんと味見したから、大丈夫ヨ!」

「食材の段ボール箱も未開封だから、誰かが意図的に入れた線は無いよ」

 

 水麗(すいれい)と如華の言う通りなら、ソーシローの変身のトリガーはサンドウィッチではない。睦樹は首をひねって考え出す。

 

「サンドウィッチじゃなかったら、怪しいのは机だな。座る場所は決まっていたから、ソーシローだけ狙うことが出来る」

「推理もいいけど、人を犬に変える薬ってあるんスか? ノーベル賞モノだと思うッスよ」

「一応、サーティーン理科学研究所では、人を動物に変えるTF薬の研究を行ってた。試作段階で、人間への投薬はまだだけど」

「ええ? じゃあ、ボク達が実験対象ってコト!?」

 

 神助(しんすけ)が素っとん狂な声を上げて、頭をかきむしり始める。

 

「どうして、そんなことを?」

「だって、遺言状の文章読んで下さいよ。30日までに島にいた人間にのみ相続権与えるってことは、人間じゃなかったら一銭も手に入らないということじゃあ?」

「オーノー。ミーはマネーゲットできない……。クゥン……」

 

 ソーシローはうなだれて目を閉じる。如華はしゃがんで、優しく彼の頭をなでてあげた。

 

「なるほど。その理屈で行けば、怪しいのは優卯美さんッスね」

「あたしが遺産を独占するために、他の兄弟を動物に変える極悪人とでも言いたいのかしら」

 

 優卯美が腕組みして冷ややかな笑みを浮かべる。葉太(ようた)は彼女の圧に負けて、「確率は10%ぐらいッスよ!」とお茶を濁した。

 

「一番犯人に近いのは、十三氏だと僕は思うよ」

「十三氏は故人ッスよ」

 

 睦樹は葉太に胡乱(うろん)な目で見られても、動じることなく説明する。

 

「いいかい? 遺言状の文句を自由に変えられるのは十三氏だし、この館に色々な仕掛けることも出来る。何より一番気になるのは、彼の遺体が見つかってないことだ。偽装自殺もありうる」

 

 今から1ヶ月前、十三氏は愛車の運転中に崖から転落した。目撃者によると、落ちた車はすぐに爆発し、助ける時間もなかったという。警察や自衛隊の懸命な捜索もむなしく、彼の遺体は見つからなかった。

 

「研究所の副所長が、1ヶ月間音信不通だったから、生前の約束通りに遺言状を公開したと言ってたわ」

「遺産を子ども達に与える気は、さらさら無かったってコトかぁ!」

「いや、でも、まだ彼を犯人と決めつけるのは……」

「エヘン、エヘン」

 

 文吾(ぶんご)が大仰にせき払いして、皆の会話を止める。彼は皆に見えるように、パソコンの画面に生前の十三氏を映し出す。

 

「いやぁ、私の一代限りにしたくないですよ、この会社。AIでも、ロボットでも、何でもいいから意識だけ残して、会社の経営に口出せたらいいですねぇ」

 

 十三氏がカメラ目線で笑いながら喋っている。何かのインタビュー動画のようだ。

 

「あっ、文吾君。さっきの所はカットしてね。うちのPRと全く関係ないから」

 

 文吾はそこで動画を止める。彼はキーボードに文章を打って、自らの考えを示した。

 

「これは、あくまで僕の考えですが、十三氏は何らかの方法で生存し、自分の子ども達を動物に変えて、自らの座を奪う存在を消そうとしているようです」

「TF薬の研究は、そのためだったと言うの? 何ておぞましいのかしら」

「孤島に集めたのも、他人に邪魔されたくなかった訳か」

「ノン! ジュ―ソーさんはそんな人じゃないデス!」

 

 今まで全く口を開かなかった霜奈が発言する。彼女は涙をにじませて、震え声で喋り始める。

 

「だって、あの人……、ジュ―ソーさん、私の歌声、褒めてくれたデス。マイクやヘッドホンもプレゼントしてくれたデス。それで、歌手になれたデス」

「うちも同じ意見ヨ。十三さん、うちの店の料理、とても美味い言ってたヨ」

 

 水麗も霜奈の意見に乗っかる。如華はうなずきながら、霜奈に涙をぬぐうためのティッシュを数枚渡した。

 

「まぁ、ミステリーかじった作家さんの推理ッスからね」

「何だと?」

「まぁまぁ、皆さん。ここは、十三さんがこの島にいるかどうか、はっきりさせるってので、どうでしょうか?」

 

 神助が、犬猿の仲の睦樹と葉太の間に割って入る。

 

「十三氏の存在証明をするなら、カギになるのは彼の匂いや指紋。霜奈ちゃん、プレゼントされたマイクやヘッドホン、持ってるかしら」

「はい。お守り代わりに持って、まだ使ってないデス」

「おお。それなら指紋取れそう」

 

 霜奈はバッグの中から重箱を取り出し、それを開け、中身のマイクやヘッドホンをテーブル上に乗せる。優卯美は指紋採取セットを取り出し、マイクやヘッドホンに付着した指紋、霜奈や他の9人の子どもの指紋を取っていく。彼女は遺産相続を巡って殺人事件が起きた時に備えて、そのセットをわざわざ持って来ていた。

 

「ソーシローの指紋は、このスプーンに残ってるかしら」

「慣れてるなぁ。警察の鑑識やったことあるのかい?」

「刑事ドラマの見よう見真似よ」

 

 優卯美は皆の指紋の一覧表を作成する。次に、テーブル上の指紋を取って、12人以外の指紋が無いか確認する。

 

「ああ!? 十三氏の指紋があった……」

 

 冷静な口調の優卯美が、珍しく声を張り上げる。

 

「マジで!?」

「でも、昔の指紋じゃないッスか」

「それはない。なぜなら、皐井斗君の指紋の上に付いているから」

 

 皐井斗の絵の具で汚れた指紋の上に、大きな指紋が重なっている。その指紋は、霜奈のマイクに付いていた指紋と一致する。ソーシローがヘリコプターで降りた時、皆がテーブルを離れているので、その時に付いたものだろう。

 

「次は臭いだな! 十三氏の臭いを追いかけようぜ!」

「臭いをたどるなら……」

 

 皆の視線が、ソーシロー犬に集中する。如華が慌てて彼の前に立ち、両手を横に広げる。

 

「ちょっと、皆さん正気? 元は人間の子どもなのに、警察犬のようなことをさせるなんて、酷いですよ!」

「でも、それが一番確実だから」

 

 優卯美は冷たく言い放つ。

 

「足跡でたどるのはどうだ?」

「OK。ミーはドッグとしてトライします!」

 

 ソーシロー犬は尻尾を振って、軽やかに答える。如華は「それでいいなら」とつぶやいて、彼から離れる。優卯美は手の甲をソーシロー犬の鼻先に近づける。

 

「今から皆の臭いを嗅いで、ここにいない人の臭いがあったら、それを追っかけてちょうだい」

「OK!」

 

 ソーシロー犬は次々と皆の臭いを嗅ぐ。絵の具臭い皐井斗を嗅いだ時だけ顔をしかめたが、おおむね笑ってるような顔つきで鼻を動かしていた。

 

 そして、十三氏の臭いを見つけると、地面に鼻を近づけながら、ゆっくり歩いていく。彼は厨房へ行き、外へ出るドアの前で立ち止まる。

 

「ワオーウ! まだコンティニュー」

「よっしゃ! 犯人捕まえたるでー」

「ちょっと待って。こんなにぞろぞろ出て行ったら、犯人に気づかれてしまうでしょうが」

 

 ソーシロー犬の後ろに、11人の子どもがついていた。さながら大病院の院長の回診の行列のようである。

 

「そうだね。数人ぐらいにしないと。この中で一番体力のある生弥は、ソーシローの後について」

「りょ! ボールとバット持っていこ」

「じゃ、私も行くデス! ジューソーさんかどうか、確かめたいデス」

 

 霜奈は真剣な眼差しで、睦樹と優卯美を見る。

 

「いいよ。でも、危なかったら、すぐに逃げるんだよ」

「ハイ!」

 

 ソーシロー犬が十三氏の臭いを追って、その後ろを生弥と霜奈がついていくことになった。他の9人は屋敷内で、彼らの無事を祈る。

 

***

 

 ソーシロー犬は順調に臭いを追っている。ソーシローは柴犬なので、尻の穴が2人に丸見えだが、今の彼に恥ずかしい気持ちはない。ただ、早く皆の役に立ちたいという思いが、彼を突き動かしている。

 彼が気にしなくても、後ろの霜奈は穴がむき出しで恥ずかしくないのかと、少し頬を赤くしていた。

 

「四本足で歩いてるけど、辛くないの?」

「ドンウォーリィ! スムーズに行けます!」

 

 ソーシロー犬は調子に乗って、少し歩調を速める。生弥は尻の穴に目がいき、もしオナラしたら直に俺達に届くなと、不安を覚えた。

 彼らは洋館近くの神社の長い石段を登っていく。ソーシロー犬と生弥は平気だが、霜奈はきつそうに息を荒くする。

 

「霜奈ちゃん、ちょっと休むか?」

「平気デス!」

 

 霜奈は少し遅れながら、ソーシロー犬の後を必死について行く。生弥は華奢な見た目と違って根性があると、感心している。

 

 どうにか神社の鳥居の下にたどり着くと、異様な光景が広がっていた。

 

「何じゃこりゃあ……」

 

 鳥居から本殿にかけて、動物の石像が狛犬のように並べられてあった。右は手前から蛇、龍、ウサギ、虎、牛、ネズミ、左は手前から馬、羊、猿、鳥、犬、イノシシの石像が並んでいる。

 

「神助がいたら、この神社の像のことわかるんだけどなぁ」

「ちょっと怖いデス……」

「フンフン! ウッ!」

 

 ソーシロー犬は犬の石像の前で立ち止まる。彼の前が石像の犬の目と合って、妖しく赤く光り出す。

 

「おい! どうしたんだ?」

 

 生弥に問いかけられても、ソーシロー犬は何も答えない。すると、低くうなり出して、体が沸騰した湯のごとくボコボコ脈打ち始める。

 

「キャア!」

 

 柴犬の体が膨れ上がり、人間と同じぐらいになる。彼が立ち上がると、生弥よりも高い長躯だった。腹は6つに割れ、腕や足が丸太のように太くなっている。

 

※AIに生成させた筋肉隆々の柴犬獣人のイメージ画像

 

 

「フゥフゥ、ハァハァ……」

 

 ソーシローの顔は理性を無くし、ケダモノのようによだれを垂らして獲物を見下ろす。

 

「ウッ! メス!?」

 

 ソーシローは霜奈の方を向いて飛びかかる。

 

「メスゥゥゥゥ!」

「キャアアア!」

「やめろっ!」

 

 生弥はバットをフルスイングして、ソーシローの腹にぶち当てた(絶対にマネしないで下さい)。ソーシローは尻もちをついて倒れる。彼の目は生気が戻り、キョロキョロ辺りを見回す。

 

「ホワット? ミー、何してた?」

「俺よりもいい体つきになりやがって、こいつぅ!」

 

 生弥はソーシローの白い腹筋をなでる。ソーシローは自らの腹を見て、やっと変化に気づいた。

 

「ノーウェイ! マッチョメンになってるぅ!?」

「これで、犯人もワンパンで倒せちゃうな」

「ラジャー! ミスター・ジュ―ソーのスメル、スメ、ホワット?」

 

 十三氏の臭いが、股間からのイカ臭さに消されてしまった。ソーシローの男根は赤黒いウインナー状で、根元に野球ボール大のコブがある。先端は精液で濡れていた。

 

「クッサ! お前、何、おっきしてんのぉ!」

「ワァ……、とても大きいデス……」

 

 初めて見る巨大犬チンが、霜奈は気持ち悪いを通り越して、神々しい物に見えてきた。

 

「アッ、アッ、コレ、どうすれば?」

「あっ、そっか。初めてなんだな。手伝ってやるよ」

 

 生弥が犬棒を握って軽くしごいてやれば、噴水のように精液が弾け飛ぶ。霜奈はハンカチで口元を覆い、顔をしかめる。

 

「オー、フィールファイン!」

「ハァー。まさか、デカ犬の精処理するとはなぁ……」

 

 生弥はあきれつつも、ソーシローの精抜きを手伝ってあげた。

 

***

 

 ソーシローがマッチョ犬獣人になって戻ってきたので、居残り組は驚愕する。

 

「一体何がどうなってんの!?」

「生命の神秘?」

「これは描かないとなぁ」

 

 皐井斗はスケッチブックに、猛烈な勢いでソーシローの姿のラフを描き出す。

 

「生弥、犯人は見つかったのか?」

「いやぁ、それが、ソーシローが神社の犬の像と目が合ったら、急に筋肉ムキムキになってさ。そんで、オナ、臭いが途切れて追えなかったんだ」

 

 霜奈を襲おうとしたことと射精の部分は伏せた。

 

「この島の神社について、何か知ってるデス?」

 

 神助は胸を張って、十二士島の神社について語り出す。

 

「もちろん! 西軍の12人の武士がこの島に着いたのは、皆さん知ってますよね? 実は、彼らの名前に動物の名前が付いていて、それぞれの動物を鎮魂の像として建てたんです!」

「墓じゃなくて、像を?」

「はい。この島に来た途端、犬のように吠えたり、鳥のように鳴きわめいたりと、奇怪な行動を取って狂う人が続出したので、有名な呪術師に除霊をお願いしたそうです。その結果、12人の悪霊を、石像の中に封じ込めたと伝えられています」

「それ、最初の時に、何で説明しなかったんスか?」

「史実でない作り話っぽいので、伝えなくてもいいかと思っちゃって。でも、こうやって、ソーシロー君が筋骨隆々の犬になってるということは、あながち作り話じゃないのかも」

「つまり、十二士島は、12人の武士と十二支のダブルミーニングというわけね」

 

 睦樹は深くうなずきながら言う。

 

「じゃあ、うちらはその動物に変えられるヨ?」

「変身のトリガーがわからない内は、何とも言えない。とにかく、元に戻す薬の開発に取り組むわ」

「うーん。ミーはこのままでもグッド」

 

 ソーシローはサイドチェストやダブルバイセップス・バックなどのボディビルダーのポーズを取って、筋肉美を披露していた。

 

 しかし、急に風船の空気が抜けたように、彼の体がしぼんでいき、元の柴犬の姿に戻ってしまう。

 

「ワオン。リトルになった……」

「犬人間の形でいられるのは短時間だけか」

 

 ソーシロー犬は頭を垂れて、細くなった脚を見てガッカリしている。皐井斗もマッチョ犬獣人のラフが途中だったので、頭の髪をクシャクシャにして悔しがっていた。

 

 その後、皆は2階に上がり、荷物を各自の部屋に入れる。

 部屋は時計回りに漢数字の番号が刻まれている。案内状通りに、壱の部屋は睦樹、弐の部屋は如華といった順番に入っていく。

 部屋の中は高級ホテルみたく、フカフカのベッドや飲み物の詰まった冷蔵庫があり、TVは無いが、とても快適な仕様だった。

 夕方6時の入浴まで、自室で過ごす者、料理に取り組む者、外で運動する者に分かれた。

 

***

 

 夕方6時になり、入浴の時間になった。この洋館は大浴場が1つしかないので、女子→男子→ソーシローの順番に入ることになった。

 脱衣所の女子達は大浴場に心躍りながら、服を脱いでいく。

 

「風呂洗ったの男子達だから、まだ誰も見てないよね?」

「ハイ。楽しみデス」

 

 如華は他の女子に比べて自分が太っていることに、劣等感を抱く。特に、長江はAV女優ばりに大きな胸とモデルのような腰のくびれを持つ、グンバツなスタイルだった。10歳でこの体だと、将来が恐ろしい。

 

「長江さん、それ付けたまま入るヨ?」

 

 水麗は長江の手首の数珠を指差す。長江は数珠を見て、ふと陰知己教の教会を思い出す。

 

「ええ。これを付けると陰神の加護が得られ、外すとたちまちにして災難がもたらされる。あな恐ろしや、恐ろしや!」

「フン、くだらない! 神なんて、人間の脳が作り出したまやかしよ」

 

 やせぎすの体の優卯美が長江を挑発する。

 

邪教に染まった凡夫にはわからないでしょうね」

「そんなモノ、一生分からなくていいわ!」

「ちょっと、ケンカやめて。仲良くしましょう、ねっ?」

 

 如華がなだめても、優卯美と長江は互いの顔を見合わせず、口を聞こうとしなかった。

 

「世界の戦争が無くならない理由ヨ」

「悲しいデス」

 

 水麗と霜奈が小声でつぶやく。

 

***

 

 大浴場は露天風呂の岩場になっていて、石のライオンの口からお湯が流れている。

 

「ひっろーい! こんな風呂、初めて!」

「このお湯の成分、後で調べましょう」

「神様、ありがとうございます」

「いい温泉卵作れるヨ」

「日本のフロ、最高デス!」

 

 皆はシャンプーやリンスで体を洗ってから、風呂に入る。風呂の温度は体温よりやや高く、丁度良い湯加減だ。皆はえびす顔になって、まったり湯船に浸かる。さっきまで争っていた優卯美と長江も仲良く並んで浸かっていた。

 

「サウナや水風呂もあれば、もっと良くなるヨ」

「改造してお客呼んじゃう?」

「それいいヨ!」

 

 水麗と如華は温泉旅館を思い描く。

 このまま、幸せな入浴時間が続いてほしいと、皆は思っていた。

 

「いやあああああああああああああああ!」

 

 1人の女子の悲鳴から、連続獣化事件の第二幕が上がる!

 

(続く)